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第8話
ふわ、ふわ。顔に触れる感触が心地よくて、七音はそのふわふわに顔を摺り寄せる。
──毛布変えたっけ。
そんなことを考えた矢先、そのふわふわの感触に思い当たった七音は、ぱっと目を開く。すると思った通り、目の前にはヒュドゥカが眠っていた。
その体に縋りつくように眠っていた七音は、どうやってそこから抜け出そうかと考えを巡らせる。だが実行に移す前にヒュドゥカが目を覚ました。
「ん……起きていたか」
「はい……え、でも、あの……どうして?」
聞きながら、もしかして昨晩そういう関係を持ったのだろうかと身じろぎして確かめるが、体に違和感はない。
「覚えていないのか。おまえは存外悪癖を持っているな」
「そう、なんですか?」
いつどうやって眠ったかも思い出せない以上、七音はヒュドゥカの言うことに頷くしかない。
「あの、俺……何したんですか?」
「俺のふかふかを取らないでと言って、俺から離れなかった。だから仕方なく共にベッドに入ったんだ」
「…………!」
きっと酔った七音はヒュドゥカの毛を毛布かなにかと間違えていたのだ。それで取り上げられないよう必死で縋りつき、ヒュドゥカを困らせてしまった。
──だから仕方なく一緒に眠ってくれたのか。
「俺の毛が気に入っているのか?」
「はい! それは、大好きです」
ふかふかだったからだけでなく、ヒュドゥカの毛は特別に気持ちがいいと伝えたくて、七音は力んで言った。
「たぶん、ヒュドゥカたちにはこの温度が丁度いいんだと思います。でも、俺にとったら少し寒いので、ヒュドゥカとくっついてると気持ちいいから……」
「そうか。ならいつでもおまえの毛布になろう」
苦笑いで返されたが、了承は了承のはずだ。またヒュドゥカとくっつく口実が出来たと七音は頬を緩ませる。
「おまえは自分の立場を分かっているのか?」
「え?」
嬉しくなってぼんやりしていた七音は、ヒュドゥカの言葉を聞き逃してしまった。だが聞き返してもヒュドゥカは「なんでもない」と言い、その言葉を七音には教えてくれなかった。
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