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第9話
それから三日に一度のペースで、七音はヒュドゥカの晩酌につきあい、その日はヒュドゥカのベッドで眠る生活をしている。
そうしていると仕方がないというか、ある意味正しいことなのだと思うが、ヒュドゥカが雄を猛らせているのに気づいてしまった。そして当然七音のものもそうなることがある。
起き抜けは顕著で、生理現象と知りつつも恥ずかしくてたまらなくなった。
──昔からあんまり自分で処理したりしないから……。
夢精することもままあったが、そのほうが気分的に楽で、七音は自慰をせずに夢精で済ませてしまうことが多かった。
だがヒュドゥカに気づかれるよりは自分で処理したほうがいいだろう。
アルにおやすみを言った後で、ベッドに潜った七音はそっと自らの雄に手を伸ばす。まだやわらかいそこを、くにくにと指先で弄りながら、七音は妄想の相手を思い描く。
寮にいる時は理想の男を想像して処理していた。七音よりも逞しい体で、立派な雄を持っている。その雄を七音のものに擦りつけ、七音のものとひと纏めにして握るよう言うのだ。
七音が言われた通りにすると、逞しい体の男は互いの裏側が擦れるように腰を揺する。その時に先端がくびれた場所を擦るイメージで七音は手を動かす。
──あ、もっと……
七音は布団の中で一層激しく手を動かす。腰を浮かせて快楽を追っていると、突然七音の耳元でヒュドゥカの声がした。
『おまえは存外悪癖を持っているな』
「あ、や……っ」
『可愛いな』
「だめ、やだ……」
その声は本当のものではない。七音の記憶によるものだ。だが本当にヒュドゥカが耳元で話しているかのように響いて、七音はいやいやと首を振る。
「見ないで」
『見ないでどうする。触れていいのか?』
「あ、あ、嫌……嘘。触って。いっぱい触って、キスして……!」
心の内側から絞り出すようにして叫んだ。
そうしてヒュドゥカに舐められた感触を思い出し、七音は極めた。
「あ……ん、ん……っ」
手で受け止めたつもりで、ぼとぼととシーツに垂れ落ちる。それほどの量を七音は放っていた。深い倦怠感が七音を襲う。
──そっか。俺、ヒュドゥカに触られたいんだ。
そして七音もヒュドゥカに触れたい。ヒュドゥカのことを知りたくて、触れたい。その意味を七音が知らないはずもなかった。
──そっか。俺、ヒュドゥカが好きなんだ。
触れられるなら想像上の男じゃなくて、ヒュドゥカがいい。七音は首筋に残る噛み痕を思う。噛み痕があるということは、確かにヒュドゥカと契ったのだ。
──なんで覚えてないんだろ。
記憶が少しでもあれば、もっとリアルにヒュドゥカとの情事を思い描けただろうが、果てしない多幸感に満ちていた記憶しかない。
また発情期が訪れればヒュドゥカは七音を抱く。それだけは確かなことだが、それはあくまでも番として責務を果たしているに過ぎない。だが七音が求めているのはそれとは違う。
可愛いと言ってくれたあの気持ちで触れてほしい。優勢種を繋いでいくためだけではなく、ただ七音として求めて欲しい。
それは果てしない望みのように思えた。
──アルファのために生きる運命だと思っていたけど、そのアルファに恋するなんて想定外だよ。
好きな人の傍にいられる。それは幸せなことだ。七音は自分に何度も何度もそう言い聞かせた。
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