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「なぁ、今のって、どんな割合で出てたん?」 長い射精(みたいなの)が終わり、ぐったりした俺の息が少し落ち着くのを待って、本郷が聞いてきた。 シートも、俺の尻も、本郷の手も、ビチャビチャに濡れている。俺は後ろに座る本郷の胸に身体をもたせかけ、分かんねぇ、と呟いた。 精液は出た、と思う。射精の圧倒的な快感があったし、タマが軽くなった。でも途中から、なんか違うものが押し寄せる感じがして、人前でおしっこを漏らすような、すごい恥ずかしい気持ちで、でもいっそ全部出してスッキリしたいって感じに抗えなくて、膀胱のゼリーを、押し出した。 白濁を撒き散らし続ける自分が恥ずかしくて、でもそれが出てる間、ずっとおかしくなるくらい気持ちよくて、自分が、どんな声を出していたのかも分からない。 「俺…… 変な声、出した…… ?」 恐る恐る聞くと、本郷の口角が、グッと上がった。 あぁ、……残念な笑顔だ。 「録音しとけば良かった。」 「…… したら殺す。埋める。」 本郷は、ははは、と楽しそうに笑った。 「気持ちよかっただろ?」 本郷が頬を、俺の髪にこすりつける。たぶん頭を撫でたいんだろう。ゼリー(とか)でベタベタの手で撫でたら俺が怒るって知ってるから、そうしてるんだって分かる。 「お…… 俺の膀胱いたわる気はミジンコもねぇのかよ。」 そりゃあ気持ちよかったけど、この、中に残ってるかもしんないやつ、どうすんの? これホント病気になったりとか…… 大丈夫なのかよ? そういう不安は、ずっとあって。 本郷が俺に構うのは単にエロ目的と好奇心だってわかってるけど、そのために身体をないがしろにされていると思うと、なんだか無性に悲しくなった。 「いやいや、あるって。だからほら、ゴーヤ茶、黒豆茶、たんぽぽ茶。ちゃんと利尿作用あるやつ買ってきたじゃんよ?」 本郷は傍にあった袋を手繰り寄せ、さっきコンビニで買ったペットボトルを見せた。 そのためにこんな、普段買わないようなお茶ばっか買ってたのか。 いろいろ調べたってのは本当らしい。 「いっぱい飲んで、いっぱい出して洗い流せば大丈夫だって。」 「…… 」 「どうした?()かっただろ?…… ちょっと疲れたか?」 ……疲れた、のかもしれない。快感の波に、翻弄されすぎて。 「じゃあまず、1本飲めよ。黒豆茶でいいか?」 本郷がそう言いながら、ペットボトルの蓋をあける。半分くらい飲んで返そうとしたら、厳しい顔で、全部飲め、と言われた。 俺が残りの黒豆茶を飲んでる間に、本郷はシートに溜まったゼリーを拭き、ベタベタになった俺の下半身をウェットティッシュで清めてくれた。 面倒見のいいやつだ。 すっかり萎えた自分のを見て、そういえば本郷は()してないよな、と気がついた。 でも、今から普通にヤる元気、ないかも…… 破られることのなかったコンドームの小袋が、シートに落ちている。 俺の目線の先に気づいたのか、本郷の手が伸びてきて俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「いいよ、オレも満足してる。それよりホラ、いけんならもう1本飲んどけ。」 たんぽぽ茶を渡された。いちいち蓋を開けてくれなくても、自分で開けられんだけど…… エロ目的で甘やかされてんのに、自分だけイってちゃダメだよな。後で、抜いてやらないと。 て…… 手で、いいよな…… ? 階下のトイレで用を足したら、普通にいつもの感じのが出たからホッとした。ゼリーは部屋でちゃんと排出されていたらしい。 部屋に戻るとレジャーシートはどこかに片付けられていて、Tシャツとスウェット姿になった本郷はベッドにもたれて漫画を読んでいた。 「おかえり。どうだった?」 「たぶん、全部出た、と、思…… 」 言い終わる前に、くぁ、とあくびが出た。 「ちょっと寝てけよ。母親帰ってくるけど、別に泊まってもいいし。」 「んーー…… 」 いや、でもこいつのだって抜いてやらないと、と思うけど、ズボンまで履かれてると今さら言い出しにくいし、何より眠くて、俺は勧められるままベッドに横になった。 柔らかい枕は、本郷のにおいがする。 目を閉じると、うつぶせの身体がベッドに吸い込まれるように心地よかった。 薄い布団を俺にかけた本郷が、かがんで唇をこめかみに押し付ける。低く優しい声が、耳の奥に響いた。 「おやすみ、海老沢。オレのSub(サブ)…… 」 え…… ?と思ったけど、まぶたを開けることもできず、俺はそのまま温かい泥のような眠りに落ちた。

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