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5. Sub
目が覚めたら、夜の8時だった。
本郷は泊まっていけばと言ったけど、俺は確かめたいことがあって、
「母親が夕飯作ってるから」
という理由をつけて、家に帰ることにした。
女子じゃねんだから、と断ったのに、本郷は結局家まで送ってくれた。コンビニ行きたいから、そう言って家を出たときには、どうせそうなるだろうって分かってたけど。
本郷はその道中、さっき俺をSubって呼んだことに、全く触れなかった。
満開になったら、ホントの花見に行こうとか、最近料理を始めたんだとか、そんな話ばかりで。
でも俺は、眠りに落ちる寸前に聞いた、あの言葉が耳から離れなくて。
家に帰ってすぐに、自分の机で保健体育の教科書を開いた。
性属性【ダイナミクス】の項目は、「私たちのからだ」の章の後ろの方に、おまけみたいについていた。
少しテカリのあるページをめくり、その項目を開くと、そこにはやたらとDomとSubという2つの英字が散乱している。
支配欲が強く、嗜虐性のあるDom
被支配欲が強く、被虐嗜好のあるSub
教科書にはその2つのダイナミクスのことが、詳しく書いてあった。誤解や差別につながらないよう、回りくどいほど丁寧に。
このページ、開ひらいたことあったかな……
高1のとき、1時間だけ、授業でもやった覚えはある。でも俺は、その時間ずっと机の下に隠したマンガを読んでいた。自分には関係ない話だと思ってたから。
悪酔いしそうなほどDomとSubが溢れたページの中に、「セーフワード」という言葉を見つけて、俺は目を見開いた。
心臓がドキドキする。
俺は、本郷と「セーフワード」を決めた、去年の11月のことを思い出していた。
*****
「え、ま、マジで?マジですんのかよ…… ?」
俺は本郷のベッドで制服のスラックスを脱がされかけていた。
今でこそもう、本郷に脱がされることにあんまり抵抗がなくなったけど、あの時はまだ、い…… 一線、を、越える前で。
なんでこんなことになってんだよぉって、俺は結構混乱していた。
そもそもその日は、無駄にツムツムの強いあいつにコツを教えてもらうってことで、家に行って。
なんでか、勝負して負けた方が勝った方の言うこと聞くってことになって。
もちろんハンデをつけて、俺は自分の推しキャラ、本郷は巷で最弱と評されるキャラで勝負したのに、まさかの惨敗で。
勝った本郷が俺に要求したことが、「フェラさして。」だった。
しろ、じゃなくて、させて。
俺は耳を疑った。
それまでの俺らは、手での抜き合いしかしてなかったから。
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