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見たところ、3倍に腫れてはいない。 でも、本郷の右目は充血して、潤んでいた。 「下で目ぇ、洗ってくる?」 本郷家の洗面所は階下にある。俺が聞くと、あいつは「無理」とバッサリ切り捨てた。 「オレ、ガチャ目なんだよ。左目0.1なの。だからこんな状態で階段下りれない。」 「…… っつったって、じゃあどうすんだよ。あ、じゃあ、洗面器とかに水入れて、持って来ようか?」 「…… それより、いい考えがある。」 「うん?」 「舐めて。」 「は?」 「だから、海老沢が、舐めて、きれいにして。」 「はぁ!?」 「ガキの頃、目にゴミが入ったら、ママが舐めてくれただろ?」 「いやいやいや、うちそんな文化ないわ。それおまえん家だけだから。」 「でも今おまえはウチにいるから、ウチの文化に則るべきだろう。」 「いやそれはない、てかまじで無理。だっておまそれ、何が入ってると思ってんだよ。」 「何って?海老沢の精液だけど?」 「バッ……!はっきり言うな!」 「……舐めないんなら、いいよ?オレ明日学校で、海老沢くんの精液に犯されたせいで右目が見えませんって、先生にも言うから。」 脅されて、俺は黙った。 そんなことを言う訳がない。 たぶん。だってそんな、本郷だって恥ずかしいだろ。 いや…… こいつはいいのか。 もともと残念なキャラなんだから。 気持ちいいコトなら、男でも女でも、やっちゃえばいいじゃん的な、それが許されるような、キャラではある。 でも俺は…… 終わる。 いろんな意味で。 そう考えて見たら、本郷はコンタクトがずれた人みたいに、右目をしぱしぱさせて、中指で目頭を押さえていた。 俺のせい、だよな…… そう思うと、俺の右手は、本郷の顔に吸い寄せられた。そのまま、身体を斜めに捻って本郷の目に顔を寄せたら、手のひらでそっと胸を押された。 「ここ、座って。」 本郷は、自分の腿をたんたん、と手のひらで叩いた。チェックのスラックスを履いた、長い脚。 「はあ?!」 俺はさすがに、ちょっとこいつどうしちゃったの?と思った。だって俺は下半身裸だし、出したのやらローションやらで汚れてるし。 だいたい、男を膝に乗せて、どーすんだよ! 「いいから、座れよ。ほら、おすわり。」 犬みたいに言うな!って言おうとしたのに、俺はなんだか内腿がそわそわした。 よく考えたら、濡れた尻で本郷のベッドに座っているんだ。 汚しちまったよな…… そう思って立ち上がったら、あいつに手を繋がれて。そんなつもりじゃなかったのに、誘導されるがまま、俺は脚を開いて本郷の腿にまたがってしまった。

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