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腹を大きく上下させて、海老沢は目を閉じた。オレが萎えたのをそっと引き抜くと、片眉だけがピクリと動く。手足を投げ出した無防備な仰向けで、少しずつ呼吸が落ちついていくのが見てわかった。 「シャワー、浴びる?」 「あとで…… 」 小さく答えた海老沢は、そのまま寝息を立て始めた。 安定の寝落ちだな…… カーテンの下から漏れていた西日は、とっくに消えた。外はすっかり暗いのだろう。 2時間も喘がされて、体育会系でもない海老沢にはつらかったはずだ。 オレは水筒に用意してたお湯でタオルを濡らして、海老沢の身体を拭いてやった。どこを拭いても、人形みたいに反応がない。 熟睡してんな…… ヘトヘトになるまで攻めて悪かったと思いながらも、気を許されてることに嬉しくなる。 でも最近、やっぱりなんか変なんだ。 こないだのウィダニー、ほんとはヤだったのかな、とか。 一応オレなりに反省はしたはずなのに。 それなのに今日も結局、むしろこないだより、海老沢を苦しませるプレイになってしまった。 だってオレはDomだから。 好きな子は、いじめたい。 耐える顔が見たい。 オレにされることならって、信頼されて全てを任されたい。 その後で褒めて、甘やかして、とろけさせたい。 そんなふうに思うのは、海老沢だけなんだ。 オレは海老沢に会うまで、いつだってイライラしてた。 小5からいろんな子とつき合ったけど、何かが足りないって、いつも満たされなくて。それがなんだかわからないことに、余計にイライラした。 オレが「残念なイケメン」って呼ばれるようになったのは、今みたいなエロ丸出しなキャラだったからじゃない。いつも不機嫌で感じの悪いガキだったからだ。暴れて校長室送りになったことも、1回や2回じゃない。 誰かに愛されて、信頼されて、オンリーワンだと言われたい。今までの彼女たちにそれが欠けていたわけじゃないのに、なんでか満たされなくて。 この子だけを守りたい、守って、支配して、オレだけのものにしたい。 そんな風に思える子に、巡り会えなくて。 中学3年の保健体育の授業で、DomとSubが共依存関係にあると知って、オレはやっとイライラの原因がわかった。 そうかオレは、自分のSubを見つけないと、精神が安定しないのかって。 オレだけに全てを委ねる、オレだけのSub。そのたった一人とパートナーになれる日を、オレはずっと待ってたんだ。 海老沢に初めて会ったときも、正直、ビビッときたりはしなかった。なんとなくつるむようになった友達の一人で、本当にただの友達。Subだってことはすぐ分かったけど、別にだからどうというわけじゃなかった。

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