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でも、いつからかなんて分からないけど、だんだん、いいなと思うようになったんだ。
海老沢といるとき、オレは楽しくてしょうがない。テンポのいい会話。同じ目線で見る景色。気兼ねなく過ごせる距離感。そういうのが全部、「好き」につながった。
父親のいるニューヨークに遊びに行った高2の夏休み、オレは確信した。
入国審査の長蛇の列に並ばされて、オレは不機嫌の極致だった。それでも、「ここに海老沢がいれば、3時間だって並んでいられる」って思ったんだ。それからは滞在中ずっと、オレはそこにいない海老沢と旅行してた。
映画で観たブルックリン橋が目の前に開けてちょっと感動したときも。
人気だと勧められて行った店のカップケーキが激甘で食えたもんじゃなかったときも。
海老沢が一緒なら、こうだろう、こう言うだろうって、考えるだけで2倍楽しくて。
同時に、早く会いたくてたまらなかった。
海老沢はSubだ。オレはDomだからそれがわかる。生まれつきの性質だから、本人の趣味嗜好とは関係ない。本能的に、Subらしい特徴を持っているというだけなんだ。
海老沢は自分がSubだとは気付いていないけど、オレの要求には基本的にNOと言わない。頭をなでてやるとすぐにぽわんとなるし、セックスの最中に、無防備な身体を差し出すような行動をとる。それは、Subが服従を示す代表的な行為のひとつだ。
無意識のうちに、身体が本能に従っているんだ。
でも、そう告げたら海老沢は、全力で否定するだろう。
Subじゃない。
俺はSubなんかじゃない、って。
それでオレを避けるようになったら……
やっと手に入れたのに逃げられるようなことになったら、オレはもうどうなるかわからない。
それが不安で、オレは海老沢にちゃんとした話ができないでいる。
海老沢は、オレがエロ目的で自分に手を出してると思ってるらしい。手近な相手で、性欲処理。全然違うけど、その勘違いを、オレは利用してる。そういう「利害の一致」で一緒にいられるなら、それでもいい。
本当は、ちゃんと告ってパートナーにして、海老沢に首輪を贈りたい。
首輪は、Subに固定のDomがいるっていう印だ。それを着けていれば、他のDomに手を出される心配もなくなる。
わりといろんなところに専門店があるし、アクセサリーの売り場でもよく見るから、いつも目がいってしまう。
あいつには黒より茶色が似合うかもとか、女じゃないからキラキラした石はついてないのがいいかとか、つい考えたりして。
ものすごい、虚しくなる。
海老沢は絶対に首輪なんか着けないだろう。
贈っても、喜ぶどころか怒り狂って、二度と会ってくれないかもしれない。
おまえはSubだよ、自分で気付いてないだけなんだよ。
そう思うけれど、言えない。
手放すのが怖いから。
そばにいられなくなるくらいなら、オレの気持ちなんか、一生伝わらなくたっていいんだ。
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