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31.
軽く舌打ちしたオレに、柳瀬が言った。
「おまえさぁ、海老沢にちゃんと言った方がいいんじゃねぇ?本人に自覚ねぇと危ないこともあんだろ?」
わかってるよ。
わかってるけど、怖くて、言えなかった。
そのくせ、感情のままにぶちまけて、このザマだ。
「おい、やめろって。」
加古が柳瀬を止める。オレが不機嫌なのが分かったんだろう。中学の頃の荒れたオレを知ってる加古は、キレたオレが柳瀬に摑みかかるとでも思ったのかもしれない。
柳瀬も加古も、海老沢がSubだと知っている。去年の夏休み明け、海老沢が風邪で休んでいる日の昼休みに、オレが秋山に言ったからだ。
「海老沢はオレのだから、手ぇ出すなよ?」
秋山はDomだ。性対象は女だと言ってたから別に牽制する必要もなかったかもしれないが、オレだって海老沢に会うまでは女の子としかつきあってこなかった。秋山はいいやつだし、ずっと友達でいたいから、無用な争いを防ぐためには芽を摘んでおく方がいいと思ったんだ。
海老沢をNormalだと思っていた柳瀬と加古は驚いていた。海老沢のSub性は強くないから、無理もない。でも、秋山はやはり知っていた。Domには分かる。たぶん、Sub同士でも分かる。
本人に自覚がなくても、いくら否定しても、海老沢はSubなんだ。
オレはその場で、3人に口止めした。海老沢本人には、Subだってことも、オレが狙ってるってことも言わないでほしい、と。
オレと海老沢の関係を、この3人がとっくに知っていると分かったら、あいつはきっと怒るだろうな。
「C組の大村…… ? 」
中間テスト前で部活が休みの秋山が、呟いた。
「俺1年のとき委員会で一緒だったけど、あいつ、Subだぜ?」
その一言で、俺らの間に、不穏な空気が流れる。加古が、記憶を辿るように、眉を寄せた。
「さっき誘いに来たとき、あの、隣のクラスの小さいやつ…… なんつったっけ…… あの、頭ふわふわのさ、あいつも一緒だったけど。」
「山脇、じゃないか?」
「そうだ、それだ!山脇だ!あいつ先月、なんか教室で暴れたとかで問題起こしてただろ?だから、海老沢と仲良いのかなって、ちょっと不思議だったんだけど。」
情報屋の柳瀬が、いま思い出したという顔で口を開いた。
「山脇って、つきあってたDomの先輩と別れてから情緒不安定だとか、噂、あるよな…… 」
「それに海老沢って。……全員Subじゃないか!ちょ、その合コン大丈夫なのかよ?」
3人の視線がオレに集まる。
オレは身体中から冷や汗が噴き出したような気がして、何も言わずにカバンをひっつかんで教室を飛び出した。
「池袋だって言ってたぞ!」
柳瀬の声だけが、追いかけてきた。
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