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34.
目が覚めたとき、俺は中川さんと2人きりだった。
「あれ…… ?」
見回すと、景色は変わってない。同じカラオケルームだけど、いつの間にか大村たちはいなくて。
隣で携帯見てた中川さんが、上からにっこりと笑った。
「おはよう」
ベンチシートで横になってた俺は、まさか朝まで寝てしまったのかと思って慌てて時計を見た。
針が差しているのは、10時過ぎ。
え、どっちの…… ?
「2時間近く寝てたよ。星那くん、酒飲み慣れてないんだね」
よかった。朝まで寝てたわけじゃなかった。
うちは放任主義ってわけじゃない普通の家だから、無断外泊なんかしたら、後で説教くらうに決まってる。金曜日だから学校の心配はないけど、日付けが変わる前には帰りたい。
「すみません。俺、帰らないと…… 」
身体を起こすと、中川さんの腕が伸びてきて、ギュッと俺の耳を引っ張った。
「…… っ!?」
驚いて目を上げると、中川さんはさっきまでと変わらずにこにこと笑っている。その顔のまま、引っ張っている耳に爪を立てて、強引に俺の身体を引き寄せた。
「しつけの悪い子だね。寝てる君につきあってあげた僕に、どの口が帰るとか言えるのかな?」
息がかかるほどの距離で、中川さんが言う。その顔はホントに、楽しそうで。両端の上がった唇が、そのままの形で言葉を発した。
「跪け。」
温度を感じさせない硬質な「命令」に、俺の身体がビクッと震えた。内腿と腰が、ブルブルする。俺はベンチに座ったまま、動けなかった。
「そこじゃないだろう?なんで僕と同じ高さの所に座ってる?跪けって言ったの、聞こえなかったかな?」
耳に食い込む爪に、強く力が込められる。
楽しそうに細められた目に、じっと覗き込まれた。
「跪け。」
中川さんの手が耳を離して、俺の頭を叩 いた。
怖い。
笑っている人が、こんなに怖いなんて、知らなかった。
俺は中川さんが指で指示した足元に、ぺたんと座った。
帰りたい。
帰りたいけど、このまま帰してもらえるわけじゃないことは、わかる。
何をしたら、帰してもらえる…… ?
俺は次の指示を待って、中川さんの膝の間から、その笑顔を見上げた。
満足そうに目を細めた中川さんが、腕を伸ばして来る。また叩かれると思って身構えたら、ふわっと頭を撫でられた。
「いい子だね、星那。」
…… 嬉しくない。
ひどく怖い。
なのに、身体の奥から甘い快感が脳に駆け上がる。
褒められたことにホッとして、身体の力が抜けた。
カチャ、と音がして。
俺の頭から離れた手が、目の前にあるベルトを外し始めた。ごく自然な手つきで、中川さんが自分のズボンのジッパーを下ろす。
何…… ?
え…… 何…… ?
何をさせられるのか、予想できることが怖かった。
恐怖で歯が、カタカタと鳴った。
逃げたい。
走って逃げたい。
ここはカラオケルームだし、鍵がかかってるわけじゃない。縛られてるわけでもない。
だからその気になれば、逃げられるはずなのに。
脚にも腰にも、全く力が入らない。
なんでだよ…… ?
わからない。
本気でわからない。
でも、中川さんがいいって言うまで、俺はここから逃げられない。
それだけは強く、本能で、感じた。
「ご褒美だよ。」
鼻先に突きつけられたそれは、凶器だとさえ思うのに。絶対に嫌だと思うのに。
「口を開けなさい、星那。」
どうしても逆らえないその「命令」に、下顎が勝手に、下がった。
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