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39.
そっと、海老沢の背中に腕を回した。
怯えさせないように、ゆっくり、オレの動きがひとつひとつ、目で見てわかるように。
海老沢の身体がこわばったのがわかる。
だから引き寄せずに、自分から身体を寄せた。
「怖い?」
「……大丈夫。」
「その耳、あいつにやられたの?」
「……俺が、悪かったから…… 」
そういうふうに、言われたんだろう。命令に従わないのが悪いのだと。そして、そう思い込まされた。海老沢の心にはまだ、あいつの支配が強く残ってる。
「悪くない。お前は何にも悪くない。悪いことなんか、何にも、してないよ。」
ゆっくり、頭を撫でた。硬くなっていた海老沢の身体が、少しずつほぐれていく。オレの肩に、海老沢がそっと頭を預けた。
「他にどっか、触られた?」
「耳と…… 顔。それと、頭。首も…… あと、服の上からだけど、脚と、背中…… 」
海老沢に触ったあいつの手を、切り落としたい。
腹が煮えるような怒りが蘇ったけど、ここで怒っても、海老沢の恐怖を煽るだけだ。
「風呂、入ろっか。」
ゆっくりと、海老沢のシャツのボタンを外した。上から順に、一つずつ。さっきから、首筋に、背中に、手が掠るだけで警戒するような反応に、気づいてた。
海老沢は多分、あいつに触られたところが、気になって仕方がないんだ。
「洗ってあげる、全部。きれいにしよ?」
服を脱がされることに、海老沢は特に抵抗を示さなかった。一枚ずつ脱がしながら、その身体におかしいところがないか、オレはこっそり確認した。
幸い、痣や腫れは見当たらず、唯一痛々しいのが紫色になった耳だった。
Domの中には、嗜虐性が暴力嗜好に傾いているやつも少なくない。
あいつが海老沢にさせたことも、決して許されることではないけれど、殴る蹴るの暴力を振るわれなかったことは不幸中の幸いだった。
自分も脱いだけど、迷った末にパンツは履いたまま、二人で風呂場に入った。
こんな海老沢相手に勃つとは思わないけど、もしそんなことになったら、今はそんなの、絶対見せたくないから。
考えてみたら、別々にシャワーを使うことはあっても、うちの風呂に一緒に入るのは初めてだ。
湯を溜めてたわけじゃないから、洗い場に海老沢を座らせて、その身体にシャワーをかけた。
水の玉をはじく白い肩。少し猫背な背中。なだらかなくびれと、背中から尻にかけてのアーチ。オレの親指がぴったりはまる、二つの尻えくぼにも。
手のひらに泡だてたボディソープをつけて、上から順に肌を撫でる。
海老沢の身体にオレが触ってないところなんて、多分ない。この半年で、どこが敏感なのか、どこが悦くてどこがくすぐったいのか、全部確かめたんだ。でも、こんな気持ちで触る日がくるなんて、考えたこともなかった。
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