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「お前、酔ってて…… 覚えてないって言ったから、オレ、自分に都合いいように言っちまったけど…… 『お前だって、いいって言ったじゃん』なんて、嘘だよ…… 」
あの夜のことは、忘れたくても忘れられない。
指2本ならするりと入ったそこは、思ったよりキツくて。
痛みで目を覚ました海老沢は、自分が何をされているのかに気づくと、身をよじって抵抗した。
拳でオレの胸を叩いて、背中でずってヘッドボードまで逃げて。
「ホントはお前…… 顔真っ赤にして、泣いて…… 痛えとイヤだしか、言わなかったよ…… 」
嫌がる海老沢が身動ぎするたび、挿れただけでイきそうだったオレは、中坊だった初体験なんかよりずっと悦くて。涙で濡れて痛みにしかめる海老沢の目を見て、言ったんだ。
「すぐ終わるから、我慢してろ」って。
オレはあの時、夢中だったから、それがどんなことなのか意識してなかった。でも今思えば、あの時の海老沢の顔は、「口を開けろ」って命令した、先月の怯えて目を見開いた顔と同じで。
実際、それから海老沢は、ただ黙って泣きながら、我慢してたんだ。オレが自分勝手に動いて、満足するまで。
オレはあの時、海老沢に「命令」したんじゃないのか。視線 で動けなくなった海老沢の、Sub性を利用して。
オレはあの男に腹を立てたけど、恋人ヅラして海老沢を助けに行ったけど、オレが去年したことは、もっとずっと、卑劣で最低なことだった。
泣きながら眠った海老沢は、朝には何も覚えていなかった。オレはそれを利用して、嘘をついた。
酔った勢いで一線を越えたけど、それは合意の上だったって。納得いかない顔の海老沢に、「信じらんねぇなら、今度もう一回してみようぜ」なんて、次につなげる約束までさせて。
「ごめん…… ずっと、騙してたんだ…… 」
言ってしまった。ずっと秘密にしていたことを。
もう一緒にはいられないな……
そう思って、オレは大きく息を吐いた。
どうすればよかったかなんて、今でもわからない。でも、あんなふうにするべきじゃなかった。
海老沢は、肘をついたまま背中を丸めて俯いていた。あの日以来、何度も抱いたベッドで。
顔が見えないけど、怒ってることは間違いない。
沈黙が重くてつらい。
何か言おうと口を開いたオレの鼓膜を、耳を疑うような言葉が震わせた。
「…… えっ?」
反射的に聞き返すと、海老沢はゆっくりと顔を上げた。怒ったような顔をしている。でも、今言ったことは……
「だから…… 知ってるよ、そんなこと。」
オレをちらっと見上げてそう言った海老沢は、口をへの字に曲げて前髪をかきあげた。
「あん時は俺、ビービー泣いて…… それが恥ずかしかったから忘れたことにしてただけだし。」
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