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DomにはパートナーのSubを守ろうとする強い防衛本能がある。Subが危険に晒された時、それを守るために攻撃的になることをディフェンスと呼ぶのだが、酷い場合には我を忘れて暴れまくってしまう。錯乱して、本来なら守るべきSubにまで暴力をふるってしまうこともあるくらいだ。
あの時、攻撃すべき相手が既にいない状態でディフェンス態勢になったオレは、怒りと攻撃性をぶつける対象を欠いて暴発寸前だった。海老沢を殴るような最悪の事態にならなかったことは良かったけど、オレがもっと大人だったら、もっとちゃんとしたDomだったら、自分の感情を抑えて海老沢をケアしてやれたんじゃないかって、考えだすと止まらなくて。
海老沢が休んでる間に、秋山にだけはメソメソと弱音を吐いてしまったのだった。
「俺も、ちょっとは勉強したから。あん時はただ、怖かったけど…… 今になって考えれば、おまえがあんな、狂戦士 みたいになっちゃったのはさ、俺のこと、と…… くべつ、とか、思ってるってこと…… なんだろ?」
俯いて話す海老沢の耳が、赤くなっていた。特別、のところはすごく聞き取りにくくて、表情で確認することもできなくて、でもそのうっすら染まった耳が、ものすごい可愛いと思った。
「だからそれは…… なんか、嬉し…… うわっ!!」
ゴッ と、鈍い音がした。
飛びついたオレに押された海老沢が、後ろに倒れて頭を壁にぶつけた音だ。
「…… ってぇーー 」
オレの下で仰向けになった海老沢が、顔をしかめて頭を押さえる。ホントごめんだけど、久しぶりに抱いた身体があったかくて、オレは犬みたいにその顎の下に頭を押しつけてすりすりした。
「ざっけんなてめぇ…… おまさっき完全に宙に浮いてんの見たぞ…… 信じらんねぇ…… 」
「ん、ごめん。」
オレは海老沢の手をどかして、壁にぶつけた後頭部を撫でた。少し汗ばんだ頭皮。ちょっと膨らんで、たんこぶになってきた。指先でそっと触れると、その感触はなんか、うん、なんか、アレだった。
「これ、前立腺みてえ。」
思ったことがそのまま口に出ちゃって、言ってみたら自分でもマジそれな、だったから、人差し指と中指のはらでクニクニ押してみた。
「痛えって…… っ!つーかやめろ、その手つき!ちょ、痛いって!マジで!バカおまえ、触んなっ!」
なんかエロいようなその感触が手放せなくて、下でもがいてる海老沢を無視してクニクニしていたら、スッと息を吸う音がした。
「大悟っ!」
背筋に冷たい電気が流れたみたいにビリッとして、オレの身体は一瞬、指先まで動かなくなった。セーフワードを言われたのは初めてだ。その抑制力の強さに、心臓がドキドキした。
ゆっくりとなら動かせる。オレは肘に力を入れて上体を起こすと、海老沢の喉元から顔を上げた。
言った本人も、その効果に驚いた顔をしていた。
時間が止まったみたいにしばらくびっくり顔で見つめ合って、海老沢がふっと笑った。
「ホントに、動けなくなるんだな。」
「…… だな。」
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