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脱力して、海老沢の胴体を覆うようにぴったり乗っかった。女の子みたいに柔らかくない。甘ったるいシャンプーとか香水の匂いもしない。硬くて、体温の高い、オレの大事な海老沢の身体。 目の前にある形のいい耳は、もう腫れていなかった。 「海老沢。」 「…… なんだよ。」 「これからも、オレのこと…… そうやって止めて。」 意図を図りかねたのか、海老沢の返事はなかった。さっきたんこぶを押した手で、髪を撫でる。優しく、押さないように。痛くしないように。 「オレ、だめなんだよ。自分でコントロールできねぇの。こないだの首のとかも…… 自分じゃ止めらんねぇから、やりすぎたらお前に止めてほしい。これから、ずっと。」 「それ…… って…… 」 「だから…… オレのコントローラー、お前に預けるから。ずっと、一緒にいてほしいってこと。」 「それ…… 乳首いじりながらする話じゃなくね?」 呆れ顔でそう言われて気がついた。頭を撫でてない方の手が、制服のシャツの上にぴこんと盛り上がった海老沢の乳首を、指先でいじってた。 「マジか…… 完全に手癖だったわ。」 「どんな手癖だよ。つうか今のさぁ、すげえいいとこだったんじゃねぇの?」 「え、どれ?親指で弾くやつ?シャツの上からってもどかしいのが逆にいいって感じ?」 「そっちじゃねぇよ!!バカなのおまえ!?いやバカだな知ってたわ!つうか重いんだよいい加減どけこのバカ!!」 オレをどかそうと、下で海老沢がもがく。 身体をぴったりくっつけてるってことは、身長差はあるけどオレらのアレは布越しに密着してるってことで。動いたことでそれに気づいた海老沢が、ギクッとした。 「なんで…… 勃って…… ?」 「海老沢とエッチしたいから。」 「ちょ…… っ、やめろ押しつけんなっ!」 「だってこれ、お前好きなやつでしょ?」 「好きとか言うな!…… つうか、好きとか言えよ!!」 海老沢が声を荒げた。さっきまでとは、違うトーンで。 怒ったみたいな顔で見上げてくる目は、真剣で。 そっかそういうのを言ってほしかったんだなって、やっと分かった。 「ごめん」とか「いい子」とかじゃなくて、ほんとはあの時だって、「好きだよ」って一言、言ってやればもしかしたら海老沢はもっと癒されたのかもしれない。 そんな一言、簡単に言えると思ったのに、真顔で見つめられるとなんか、喉に詰まって言えなくて。 「あーー 、でもオレ、言ったろ?セーフワード決めたとき。」 「あれ…… 本気、で?」 「あのちょっと前から、オレはずっと本気だし。」 「本郷…… 」 「だからさ、セックスしていい?」 真顔の海老沢に合わせてすげえまじめに言ったのに、海老沢は表情を無くして固まった。 「おまえホント、残念な。」 ホントに残念なものを見る目で言われたから、さすがにカッコ悪かったかなって思ったけど。 「イケメン、まで言って。」 そう頼んだら海老沢が、最近見なかった手放しの笑顔で吹き出した。 「残念すぎるバカ。」

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