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「だ…… っ、ちょ、ストップ」
海老沢の手を押さえたら、不思議そうな顔で見上げられた。
「も、挿れるわ。すげえの中 、ひくついてて。もぉ、欲しいんだろ…… ?」
曲げた指で腫れた前立腺を押したら、全中の肉がギュッと締まってオレの指に絡みついた。
「欲しいって言えよ。」
オレの方がヤバかったなんて気づかれたくなくて、海老沢を覗き込んで挑発した。濡れた黒目が戸惑ったように揺れるのを見て。
あ、今の…… って思って慌てて顔を逸らしたら、海老沢がオレの頬に手を当てて正面に戻した。
「いちいち、目ぇ逸らすな。」
「や、でも…… 」
「嫌だったら、ちゃんと言うから。」
仰向けで、前髪が流れた海老沢が、真っ直ぐに見上げてそう言ってくれる。
「何を気にしてんのか、なんとなく分かるけど…… 去年だって、俺がホントにやだって思ってて、おまえがDomだから逆らえなかったんだとしたら、さ。こないだのあれみたいに、ドロップ…… してたはずだろ?俺。」
「あ…… 」
「言っとくけど、合意じゃなかったことはそのままだからな!」
たしなめるように付け足した海老沢の言葉に、完全に許されてるわけじゃないっててわかったけど。
ずっと感じてた罪の意識が、ふっと軽くなった気がした。
「じゃあ…… 挿れてほしいって、言えよ。」
久しぶりにじっと海老沢の目を見て言ったら、オレの方が視線 にやられそうになるくらいの強さで睨み返された。
海老沢の瞳は、カーテン越しに入る夕方の光を映して、いつもより明るい茶色に見えた。
いちいち可愛いなって思う。女顔とか美少年とか、そういうのじゃ全然ないのに。
時々自分の頭がおかしいのかと思うことがある。海老沢の全部が可愛くて、ほかのやつに見せるのもヤダ、とか。この目に映るのはオレだけでいいのに、とか思ったりして。
そういう気持ちで目を見てしまうことが、怖かったんだけど。
「言わねぇよ。」
真顔で「従わない」意思を口に出した海老沢は、その口の端を挑戦的に持ち上げた。
「言わなくたって、挿れんだろ?」
よかった、支配してない。
生意気だな、服従させたい。
そんな相反する気持ちがオレの中に、同じ熱量でブワッと湧き上がった。
めちゃくちゃな自分が可笑しい。
それで、あぁこいつやっぱり好きだなって、改めてなんか胸がギュッとなって。
「…… うん。」
少し伸びあがってむき出しの額にキスしたら、海老沢がすごい満たされたみたいなとろんとした顔で、笑った。
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