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第11話
『君が決めていいよ。僕は君に従う』
「なんでそんなっ……、俺はΩだ。そんな権利、俺にあるの?! あなたが嫌だと言ったら俺は終わりなんだ!」
どうして詠月からそんな言葉が出てくるのだろうかと、皐月は涙を滲ませる。
それは、つまり、その程度なのだ──。
自分はこのαの男にとって、あってもなくても困らない、どうでもいい程度の、ただ、通りすがりのΩなのだ──。
『皐月くん……』
「もう良いっ、俺っ……仕事あるから……サヨナラッ」
詠月の返事も待たずに皐月は一方的に電話を切り、携帯を枕に投げつけた。
涙が止まらない──。
皐月は恋が破れて苦しいのか、
Ωである自分の運命に改めて失望したのか、
自分の中でも感情が追いつかず、整理がつかない──。
「助けて……誰か……」
その日はただ、一人で泣き続けた──。
後日、瑠璃からメールが来た。
αが行く会員制バーがあるので、一度行って見たらという打診だった。
瑠璃の伴侶が言うには、そこは、番に出会う機会のあまりないαたちが、高い会費を払って登録しており、正規のIDを持っていればどんなΩでも入店出来るらしい。
身元がはっきりしたαしかいないので安心だと言っていたそうだ。
「あの人以外のαに会ってみるのもこの際良いのかも……」
皐月はいい加減この夢から醒めるべきなのではないかと、薄っすら思うようになっていた──。
「恋がしたいと言っておいて……、結局俺は、あの人に自分の価値観を押し付けているだけなんだろうな……」
言葉にするとそれはますます皐月の体を寒くさせた──。
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