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第12話

「IDはお持ちですか?」  入口の受付で黒服の男に尋ねられ、皐月は素直に身分証明IDを出した。  勇気を出して、瑠璃に教えてもらった会員制バーに皐月は足を踏み入れた。  今度は、この間の合コンのような失敗がないように瑠璃に着いて行ってもらって服も髪もちゃんとした。  瑠璃曰く、清潔感あふれるΩ、というテーマらしい。ジャケットなんか大学の卒業式以来に羽織った。  それは皐月にとって人生で初めてのバーだった。  照明は程よい暗さまで落とされ、店内はとても落ち着いていて、ムーディーなジャズが耳障りでない程度に流れている。  オープンなカウンター席と半個室のようなボックス席に分かれていて、初対面とは思えないほど近くで話す二人組が何度か視界に入った。  皐月は一気に緊張して、自分の喉が乾くのがわかった。 「どこでもお好きな席へお掛けください。お飲み物はフリーとなっておりますので、カウンターにてご注文下さいませ」  それだけを案内すると黒服の男性は、また入口へと戻って行った。どうやら従業員たちは皆βで構成されているようだった。  ソワソワしながらも皐月は端のボックス席に腰掛け、薄めに作って貰ったカクテルを少しだけ口にした。 「ヴっ……濃い……っ」  皐月の思う薄めとはかなり開きのある内容のものになっていて、皐月は自分の幼さに恥ずかしくなった。

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