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第25話

「ねぇねぇ、子供部屋はどんながいいかなぁ? 男の子だったら大きなプラレール敷いて、たくさん電車を走らせよう。女の子だったらお姫様みたいな可愛いくて煌びやかなドレッサーをおいてー」  ソファの隣に腰掛け、妄想を大暴走させている番に皐月はいい加減集中出来ず、読んでいた雑誌から顔を上げた。 「誰がロマンチストだって? 詠月さんだって相当……」 「違う! 君のが移ったんだよ!」 「ちょっと! 人のことを病気みたいにっ」 「ダメ、怒っちゃ。胎教に良くない!」  雑誌から離れた皐月の両手を包み込むように握り、詠月は「めっ!」と、厳しい顔で諭す。そしてすぐにだらしない顔になって、カーペットに腰を落とし、皐月の膨らんだお腹に頰を寄せる。  皐月は「またそれするの? よく飽きないね」と呆れながら子供のような仕草の詠月の頭を優しく撫でた。    初めて会った時の詠月は、完璧な男だった。  少し無神経なことも言ったけれど、詠月の生きた環境が皐月のものとは大きく違うことを思えば仕方ない程度のことだ。今なら冷静にそう思える。  いつも高価なスーツ、靴に時計に車。格好の悪い姿など何一つ想像出来なかった。 ──なのに、皐月が妊娠したとわかると親馬鹿っぷりを出産前から大爆発させた。  あの別れを決意した時に、その命はもう宿っていて、それがわかると詠月は皐月好みのロマンチックを大いに盛り込んだプロポーズをしてきたが、「ちょっとやり過ぎでシラケる」と、皐月に言われ、想像以上に酷く落ち込んでいた。  満天の星と綺麗な月の見えるプライベートビーチでバラの花束と結婚指輪のコンボなんて……。 「もう、旅行に誘われた時点で読めてた」と他称ロマンチストの番に冷ややかに告げられた。 「酷いよね、君ってば、OKの代わりにハイどーぞって首出してくるんだもん」 「だって俺は前から噛んでって言ってたじゃん。詠月さんが焦らしたんでしょ?」 「焦らしたんじゃなくて、あれはぁ……もう、良いよぉ……」 「拗ねた」皐月は面白がってクスクスと笑う。  詠月の髪が柔らかくて、寄せられた肌が愛おしくて、皐月はうっとりと瞼を閉じた。

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