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第3話
「…………携帯鳴ってるぞ」
「ドライブモードにするの忘れちゃって……うるさかったら切って下さい」
そう言われて電源を付けてディスプレイに表示された不在着信には社長、と書かれていた。
立て続けに鳴らしてくる電話に嫌気がさすような気持ちになりながら出ることにした。
「もしもし、御影です」
『………お前自分の携帯どうしたんだよ』
「家に忘れちゃって」
『はあ、携帯の意味ねえだろ』
…………よく言われるその言葉。
でも携帯なくても平気な生活してるせいか不便さを感じたことがない。
『呼んでからどれだけ経ってると思ってんだ』
「その言い方だと、俺を呼んだ用件はどうでも良いことじゃないんですね?」
『どうでもいいことで呼んだことないだろ』
結構あるんですけどね…………。
納期ギリギリの時とかは割と真面目にキレてたけど多分気がついてなかったんだよな。
「社に戻ったらすぐ向かいます」
『ん、待ってる』
「しゃ、社長でしたか………?」
「あぁ、俺に用だったみたい。携帯忘れてさ、なんか悪いな」
「いやいやいや!全然っ!平気です!」
それから翼の運転する車はあっという間に会社について、俺は崚さんの呼び出しで余儀なく社長室に出向いた。
「失礼します、御影です」
ノックをして社長室に入ると、崚さんの秘書─矢垣 さんは入れ替わるように部屋から出ていって、二人だけになった。
「それで用件はなんですか、崚さん」
「用件な……考えてたんだけど、忘れた」
「……やっぱりどうでも良いことじゃないですか」
「帰りは迎えに行くから待ってろ、これでいいか?」
…………今日は泊まりかな。
崚さんとは同棲はしていない。
金曜日には大体、崚さんの家に連れていかれてそのまま休日を過ごす。
嫌ではないが疲れる、特に夜。
「分かりました、じゃあ失礼します」
「…………やっぱ我慢できない」
社長室を出ようと足を動かしたら、崚さんに腕を掴まれてそれを阻まれた。
「今日は我慢してください。それにここ会社です、駄目です」
「千榛、少しだけ、な?」
「駄目だって言ってる……のに」
こうやって流される俺も良くないんだよな。
「…………っ」
「やわらかぁ……」
「………っ!」
「家だと素直なのに……そういうとこも可愛いけどさ」
唇を食むように奪われ口内を犯される。
会社の中では恋人扱いされたくない、そう言っているのに崚は平気でこういうことをする。
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