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第8話
*
崚に初めて会ったのは会社の中だった。
新入社員の俺は覚えることが多くてメモを片手にたくさんの人の話を聞いてたっけな。
昼休みに社員食堂ならぬ社員カフェで昼食を摂っていた。
大体、同期と食べるのが日常になり始めてた頃だったと思うんだけど、その日は同期が研修で外に行ってたんだ。
だから行儀が悪いけど一人で携帯を弄りながら注文した飯を食べてて、周りなんか気にしてなかった。
「………おい、お前どこの部署だ」
突然声をかけられたと思って前を向いてみれば先輩でも上司でもない知らない人。
なにかしてしまったかと思ったけど、特になにも問題は起こしてないし普通に昼食を食べていただけだ。
「………あんたこそ誰…?……いきなりお前呼びはないだろ」
あの時、他の部署の同期かと思った。
俺と同じぐらいに若くて、言葉遣いに品が無い、それに加え高圧的な態度………それから読み取れることは俺を見下しているということ。
「…………っ!お前、俺の事知らねえのかよ」
「………知らない」
きっと崚は、俺が崚のことを知らないと答えたことに驚きと悔しさがあったんだと思う。
だけどまだ社長になっていなかった崚のことを俺は知らなかった。
「……………」
「名乗らないの?」
「な、………っ」
崚は自分から名乗ろうとせず、俺はそのまま昼食を食べる手を止めなかった。
結局なんの用があったんだと問い詰めたくなったが、自分のことを下に見ている奴とは話すのも嫌になって借りたトレーを下げ自分の部署に戻った。
それからも、崚はちょくちょく昼時に社員カフェに現れては特にこれといった会話をするでもなく、やはり高圧的な態度で俺の前に座って昼飯を食べに来ていた。
「お前、──部署の御影千榛っていうんだな」
「………あんた俺のストーカーか?」
「違う!………ところでお前、どこに住んでんだ?」
「…………やっぱストーカーでしょ」
「違うに決まってんだろ!」
品のない言葉遣いや高圧的に思えた態度はわざとやっているのではなく、これが素なんだと気が付いた。
そして名前も正体も知らないこの男と話すのは、だんだんと楽しいと思い始めたのは初めて会った日から随分経った頃だったと思う。
「今更だけど、あんたの名前なんていうの?」
「本当今更だな………比奈田 崚 忘れんなよ」
俺から名前を聞いたということは、それなりに関心を持ち始めたということで。
この会社には社長の息子がいる、という話を聞いたことがあった俺は、同じ名字でまさかと思ったがその予想をすぐに振り切った。
俺と同い年くらいだろうし、そもそもこんな奴が社長の息子なわけない。
「崚、か………忘れないようにしとく」
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