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第9話

「お前今週の土曜日なんか予定あるか?」 「…………………部屋の片付け」 「そんなのしなくていい、出かけるから空けとけ」 なんでこいつはいつもこうなんだ…。 もっと他に頼み方とかあるだろ、そもそも人の休みを削って何をするって言うんだ。 俺の貴重な休みを……………。 * 「よ、ちゃんと来たじゃねえか」 「……………待たせるのは嫌だからだ」 「素直じゃねーな、まぁ行くか」 結局連れていかれたのはカップルがたくさんいるような映画館で、興味もないような恋愛映画を観ることになった。 今思えば、それがすげー可笑しくて。 崚は興味ないのにその映画を見てたみたいで、本当の目的は恋愛映画をみて俺を恋愛に目覚めさせる相乗効果を期待してたらしい。 結果的には目覚めなかったけど。 「今日さ、俺ん家泊まってけよ」 「あー…………今日はこの後予定あるからやめとく、誘ってくれてありがとな」 「は…?この時間から予定って、誰かと会う約束でもあんのかよ」 そう言って崚が不機嫌になり始めたのは夜の9時頃で、夕食を食べた後だった。 「…………あったらなんだ、あんたには関係ないだろ俺にも予定は有るんだ」 「確かに直接的に関係ないけど、俺はお前を誘ってる。なら間接的には関係してるだろ?」 意味不明な言葉を並べられて思わずため息をつく。 理解出来そうで出来ないそれっぽいことを俺に言って、関係していると言い張る崚に落胆した。 こうも聞き分けが悪いなんて思ってなかった。 「崚とはもう会わない」 「………は?どういう……あ、おい待て!」 そう言って掴まれた腕を乱暴に振り切り、人混みで溢れる交差点の中に紛れ込んだ。 夜とはいえ、そこにはまだたくさんの人で賑わっており雑音が途切れない。 交差点を渡り切った俺はそのまま自宅方面の電車に乗り込んだ。 本当は大好きな洋菓子店に寄って帰るつもりだったけど、そんな気分でもなくなってしまった。 苺のショートケーキ食べたかったのに。 気分が悪くなったのは全部、全部あいつのせいだ。 人間生きていれば、人に知られたくない事の一つや二つくらいあるもので。 俺にとってそれは甘いものが好物という事。 会社の人なんかには特に知られたくない。 ふと電車の吊り革に掴まりながら、さっきの崚を思い出す。 男との経験が無い訳じゃない。 高校時代には俺もそっち側の人間として密かに生きていた。 だけど崚みたいなのは駄目だ、俺とは相性が悪すぎる。 俺は基本的に束縛、嫉妬、支配感、そういったものが苦手だ。 縛られて生きるのはどうにも息苦しくて仕方がない。 どうせ生きるんだったらもっと自由に、楽観的に生きればいいのに。

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