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第11話

「……俺………」 崚のことが、嫌いだ。 そう言ったら崚はもう俺の事を諦めるだろう。 そしてきっともう俺に会いにこない。 崚のことが、好きだ。 そう言ったらどうなってしまう? 男の崚と交際を始めて仲良くやっていく? そんなことが俺に出来るのか。 どちらも俺にとっては良くない結果。 だけど崚は俺を待っている。答えがない、なんて多分許してはくれないんだろう。 そして俺は答えを口にする。 「崚のこと、好き…………だ。だけど………付き合うとか結婚とかは、考えられない」 「っ良かった…………」 全然良くない答えの筈なのに、崚はそう言って安心したように涙を流し始めた。 「千榛に嫌われてたら、ほんとに、死ぬ勢いで…っ………」 「ちょ、おい……そんな、大袈裟な」 「初めて、初めてなんだ。こんなに人を好きになったこと」 崚は不安だったんだ。 あんな横柄な態度とってても、内面はもっと不安定だったのかもしれない。 「………ここで言うべき事じゃないかもしんないけどさ、俺の話も聞いてくれる?」 「…っ、悪い、取り乱した。何時間でも聞く」 ここで崚に話すのは間違っているだろうか。 自分から話そうと思って話すのは崚が初めてだったと思う。 「高校の時に俺、男と付き合ってたんだ」 高校に入ってから、人生で初めて男と付き合った。 俺より一つ年上で結構ヤンチャな人だった。 その人とは高二の時から付き合い始めて、しばらくして俺はその人からDVを受けるようになった。 俺は男だったけど、怖くて怖くてしょうがなかった。 あざが出来て治ったと思えばまた新しいあざが増えて。 俺の体にはまだ跡が残っているところもある。 傷がなくなることはもう諦めている。 人前で脱ぐことは出来なくなったし、こんな汚い体を見せるのも嫌になった。 愛されているはずなのに。 これが愛の形なんだと言われたこともあった。 俺の言うことはまともに聞いて貰えなかったし、聞いて貰えたとしても相手に都合よく変換された言葉に変わってしまった。 愛情があるはずなのに、暴力を振るわれるのはとてもとてもこわかった。 愛を確認したと思えば突然叩かれたり殴られたこともあったし、妊娠しない都合の良い性欲処理機にされているだけなのかもしれないとも思った。 卒業と同時に、先生に事情を話し協力してもらって進学先を誰にも知られないように俺は一人で地元からこっちに出てきた。 親にも知られないように、という点では話し合いにものすごく時間がかかったが結果的には俺の幸せを一番に考えてくれることになった。 今でも男と付き合うのは怖いと思ってしまう。 すっげー良い人でも付き合うってなるとあの時の光景がフラッシュバックして軽いパニックになったりする。 男が同性の男に恐怖感を抱くなんて変な話だけど、実際にそうなっていて過去の経験は記憶に根強く残ってしまう。 俺がパニックになって相手を拒絶する、そうするとお互いが嫌な気持ちになってしまう。 それだったら最初から付き合わない方がいいし関係を持たないのが一番だ。 「千榛はそれでも良いって思うか?」 「……………え?」 崚が何を言っているのかよく分からない。 聞き返すように頭をかしげた。 「順に話すから聞いてて」 「う、うん」 「千榛は男と恋愛絡みの関係を持とうとするとパニックになってしまうことがある」 そう、今までもそれで何度か失敗した。 「そして相手を嫌な気持ちにさせる」 勝手に相手に怯えて、勝手に傷付けてしまう。 そしてそんな自分を嫌悪する。 「相手を傷付けるのが嫌だから、男とは付き合えない」 「………あぁ」 「千榛は自分が辛くても、相手が傷つかないなら付き合ってもいいのか?」 「…………克服は、したいとは......思ってる」 「だったら何も言わずに俺と付き合って欲しい」 崚と付き合う………………。 「千榛が恋愛に表向きじゃないのは理解した。 それでもやっぱり俺、お前のこと諦められない」 「……なんで、俺なんか」 他に良い人はもっといっぱいいると思うし、男の俺より綺麗な女の人はたくさんいる。 崚なら頭も良くてルックスも良いからそれこそ寄ってくる女の人は俺の想像以上にいるんだと思う。 「惚れたから」 そう言いきった崚は、俺を強く抱きしめた。 苦しいほどの抱擁に戸惑ったが丁度聞こえてくる心音がドクドクと緊張しているのに気がついた。 「本当に何も考えなくていい、千榛の嫌がることはしないし無理に踏み込んだりもしない。ただ傍にいさせて欲しい」 「………………………」 少しずつ、俺も前に進めるかもしれない。 崚なら俺を変えてくれる。 崚を酷く傷付けてしまう。 そんな期待と、不安、両方が入り交じった気持ちに押しつぶされそうになりながらも崚の気持ちに応えた。

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