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第12話

* 自分の家に戻って携帯を取り、急いで崚の家に戻った。 歩いている道中に崚と出会った頃のことを思い出して懐かしい気持ちが蘇ってくる。 崚と付き合ってから、男が駄目だったのも少しずつだったけど良くなっていって今ではそれなりに普通の生活を送れるようになってきた。 あの時、崚がいてくれて良かった。 そんなことをしみじみと思っていたらあっという間に崚の家の前まで着いて、まだ寝ているかもしれないからそうっと鍵を差し込んでドアを開けた。 「…………わ……起きてたんだ」 「.........どこ行ってたんだよ……起きたらいなくてびびったんだけど」 「ごめん、携帯取りに行ってた」 玄関のドアを開けたらすぐに毛布に包まって俺の帰りを待っていたらしい崚が眠そうに抱きついてきた。 「…………リビング行こ」 「うん、玄関で待たせてごめん」 それからトーストを二枚焼いて、二人で簡単な朝食を作った。 崚は俺が作った料理をいつも美味しいって言って食べてくれる。 それが嬉しくて料理はあんまり得意じゃないし美味しく作れないけど、作ること自体は楽しくなった。 「今日は久しぶりに出かけようか…………どっか行きたいとこある?」 食事を終えた後、だらだらとテレビを見て休んでいたら崚がそう言った。 確かに最近は年度末で忙しくて出かけることがなかったな、なんて思い出す。 「崚と家にいるだけで十分だ」 「嬉しいこと言ってくれんな〜、だけど俺は千榛を自慢したいの。一緒に出かけてくれるか?」 「まあ………それなら、仕方ないな」 会社ではお堅いイメージでクールなイケメンだなんて騒がれている崚。 だけど俺といる時は全然そんなことなくて、寧ろその真逆を行くといっても過言じゃないと思う。 俺がほかの人間と二人きりになったり、距離が近すぎるとあからさまに不機嫌になってその後もなかなか機嫌は直らない事もある。 面倒といえば面倒だけど、崚から愛されているっていうのが理解できるからほんの少しだけ安心する。 * 「ねえみて、あそこに座ってる二人」 「あの人達まじでかっこ良い、友達?…兄弟かな?」 「えぇ……兄弟では、なくない?」 「でもすっごい仲良さそうじゃん」 「じゃあ兄弟なのかな?」 コソコソと聞こえてくる小声の会話。 それは二つ隣のテーブルの女性客のものだろう。 聞こえないようにと話しているのだろうが、案外それは聞こえていて、俺は聞こえていないフリを続行する。 「この後、買い物でも良い?千榛とお揃いの服が欲しい」 落ち着きのある雰囲気のカフェで、窓際の席に座っていた俺たちは次の行動の相談をしていた。 「…………いいけど……この前も買ったじゃん」 「この前とは別の、ほら行くぞ」 「あ、うん………ん…っ」 コーヒーを飲み終えた崚は席を立って、先程の女性客達に見せつけるように一瞬で軽いキスをしてきた。 一瞬だったとはいえ、恥ずかしさが込み上げてくる。 崚がここでキスをした理由も大体は理解出来るけど、わざわざ見せつけるような真似をするなんて…………まだまだ子供だな。

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