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第13話

「今度来ていく服買いたいんだけど、何か希望とかある?」 「……別に」 「今日は時間あるからゆっくり考えよう」 崚と婚約をしてから、定期的に崚の家族と食事をすることが増えてきた。 崚の家族構成は、お父さん、お母さん、お姉さん、お兄さん、そして崚。 末っ子の崚は可愛がられて育ったようで、俺の貰えなかったたくさんのモノをもらってここまで来た。 崚の両親は俺の事をあんまり良くは思ってなくて正直、崚の家族と食事に行く事や、崚の実家に行くのは気持ちが沈んで仕方がない。 両親と縁を切り、高潔な血筋でもない。 性別は男でぱっとしないし、取り柄もない。 そんな男が大事な息子の婚約者だなんて言ったら誰でもいい顔はしないだろう。 崚はそんな俺の気持ちもちゃんと分かってくれていて、毎回俺のことを気にしてくれている。 今だって、多分俺が少しでも気持ちが楽な状態で来週行けるように、の配慮なんだと思う。 「崚に、選んで欲しい…………」 俺が選ぶより、崚が選んだ方がセンスが良いし何より間違いがない。 小言を言われるのはとても苦痛で仕方ないから。 * 「千榛、やっぱ俺に合わせてんだろ」 「…合わせてない、もう何度も言ってる」 結婚を前提に付き合ってから、もう何回繰り返したから分からないそのやり取りは俺と崚の間に良くない雰囲気を漂わせる。 「分かるんだよ、千榛が自分の気持ち押し込めて我慢してんの」 「…そんなのしてない………」 買い物を終えて、崚の家に戻ってきてからこうやって時間がどんどん流れていく。 崚の顔つきも険しいままで俺を見つめる。 「俺の家族のことは気にしなくていい、千榛は千榛の個性を大事にしろ」 「……………」 こういう空気が流れるのは嫌いだ。 どう反応していいのか分からない、俺の個性を大事にって…………主張するほどの個性もない。 * 「そろそろ帰る、泊めてくれてありがとう」 「暇だし送る」 「大丈夫、崚も疲れてんだろ」 「心配だからこれくらいさせろ」 重たい空気を引きずったまま、そう言われて言い返すことも無くおとなしく送って貰うことにした。 朝歩いた道を、崚と一緒に進んでいく。 自然と重なった手が強く結ばれ、さっきとは違うその心地良さに頬が緩む。 「ありがとう、また明日会社で」 「あぁ……」 会社ではこんな気まずい雰囲気になることもないだろう。 会社ではあくまで社長と社員の関係で、それ以上にはならないようにしている。 ただ崚の認識は俺とは違って、会社内でも俺を婚約者として扱いたがる。 他の人間に見せびらかすようなことをする時もあるし、敬称をとれと言う時もある。 それで喧嘩になったこともあるんだけど、崚がとにかく譲らなくて面倒で、俺からその話題に触れるのはやめることにした。

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