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第14話

* 「おはようございます、御影さん」 「あぁ、おはよう」 週明け月曜日の朝なんて憂鬱だ。 毎日が休日で働かなくて良い世界があるのならばそんな世界に行きたいと幻想を抱くことも多々ある。 「わり、これ10部コピー頼む」 「了解です」 ほんと、生きてる意味とか分かんねえな。 ただ働きまくって帰って食べて寝て、そんな繰り返しに飽き飽きする。 崚のことは好きだけど、崚の家族には疲れる。 自分という人間が、酷く醜くそしてつまらなく見える。 こんな俺は好きになれそうもない。 「……ん、御影さん」 「うわ、びびった………ごめん、何?」 パソコンに向き合って仕事に没頭していたら、話しかけられていることに気が付かなかった。 女性社員は嫌な顔もせず、ドーナツの入った箱を俺に渡してきた。 「差し入れです、みんな先に頂いたのであとは全部食べちゃってください」 残り物ですみません、と謝ってから女性社員は戻って行った。だけど箱の中には俺の好きなドーナツばかりが残っている。 「…………甘い」 きっとまた気を遣って、わざわざ俺の好きなものを残しておいてくれたんだろう。 一口かじると、そこからじんわりと甘さが伝わって幸福感が一気に広がる。 一つだけ食べて、あとは家に持ち帰ろう。 * 「お、わった……………」 ほぼ丸一日パソコンの前にいるような仕事をしていた。 首や肩の凝りは酷く重くて気だるくなる。 鞄に所持品やファイルやらを詰めてから、服装を整え、帰宅しようと会社を出ていく。 ……………つもりだったんだけどな。 「お疲れ様です」 「おう、お疲れ様」 すれ違う社員に声をかけられ、返事をする。 朝と違うことといえば足取りは軽いが、体は気だるいということぐらいか。 「あら、千榛さん」 「……………ご無沙汰しております」 思わぬ人に足止めを食らうことになった。 崚の母親、未来の俺のお義母さんってとこか 。 俺を吟味するように動く視線はいつも通り頭が痛くなる。 「………崚さんをお呼びしましょうか?」 「結構ですよ。あの子も忙しいでしょうから」 その言葉の裏には、俺みたいに早く帰れるほど暇じゃないのだという皮肉が込められているに違いない。 「ではどうしてこちらに?」 「少し用事がありまして、(のぞむ)と来ているんです」 「そうでしたか」 比奈田 望。 崚の兄で、親の意思を押し切り自分の会社を立ち上げ成功。 今はその会社の社長として働いていたはず。 俺はどうもこの兄が苦手で仕方がない。 望とは会わないうちにさっさと帰ろう。 そう思い、お義母さんに挨拶をしてその場を去ろうとした時だった。

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