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第15話
「千榛君、久しぶり」
「…………お久しぶりです、望さん」
どうやら俺の行動は遅かったらしい。
が、歩み寄ってくる望の隣には安心したことに崚がいた。
これならきっと俺をからかうこともないだろう。
「お疲れ様、千榛。帰るのか?」
「お疲れ様です崚さん。そろそろ帰ろうかと思っていたところでお義母さんと会って…」
隣に来てくれた崚の袖を二人からは見えないように掴んで、そばに居て欲しいと瞳で訴えた。
それに崚は軽く頷いて、二人に見せつけるように手を握り直した。
それを見たお義母さんは、少し顔を歪めるような感じで、望は感嘆するように崚をニヤリとした笑みで捉える。
「これから四人でディナーでもどう?」
望がそう言って、崚の肩に手を置いた。
ディナーなんてとんでもない。
疲れるだけだし、二人の視線がある状態で料理を美味しいと思えるかどうかわからない。
早く帰ってもう休みたい。
「今日は二人で約束してるんだ、悪いな」
「……」
そう言ってくれた崚に合わせて俺も軽く頭を下げる。
望は残念だと言って、挨拶を済ませるとお義母さんと一緒に帰って行った。
「…ありがとう、ございます」
「気をつけて帰れよ。……愛してる」
崚としては、やっぱり家族と仲良くして欲しいのだろうか。
………大体の人間がそう思うよな。
帰り道をぶらぶらと歩きながらそんなことを考えた。
崚はいつか俺の家族に会いたいと言っていた。
だけど、俺は絶対にそんなことはさせないと心の中で思ったことがあった。
崚と一緒にいると落ち着いたり、安心したり、穏やかな気持ちになることが多いけど、時々一緒にいるのが嫌になって苦しくなる。
なんで俺なんかが崚のそばに居るんだろう。
なんで俺が崚を独り占めしていいんだろう。
なんで崚は俺みたいな人間を愛しているんだろう。
全く分からないことだらけだ。
俺一人で考えてもどうにもならないことは、もう考えないことに決めた。
*
『もしもし、今大丈夫?』
「んー、寝るとこだった」
『そうか。...水曜日だけどさ俺の家に来て欲しい』
「えぇ、めんどくさいんだけど」
『抱かれる心の準備しとけよ』
崚の家に来い、という主旨の誘いは断ることが出来ない。
その理由は別に立場とか年齢とかじゃない。
数カ月前に俺は崚から同棲しようと言われた。
だけど、一人の時間が無くなるのは嫌だったし家事が苦手だったからあまり前向きには考えられなかった。
それに何より心配だったのは夜の生活の方。
崚って俺より体力あってすっげー絶倫だし、セックスも上手くていつも俺が先にバテるんだよな。
それが平日に何回も………って考えると恐ろしくて断る他なかった。
それを言っても、「好きだから勃つんだ」とか「生理現象だから仕方ないとか」しばらくは認めてくれなかったけど、俺がいつでも泊まりに行けると言ったら、同棲はもう少し先延ばしにしてくれることになった。
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