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第17話
*
「……怒ってるのか?」
「…怒ってない、もう出る」
喧嘩はしていないものの、雰囲気は喧嘩中のようなもの。
崚は俺のことを気にしつつもそれ以上は何も言ってこない。
崚に何度言っても直らないし、多分もう直そうともしないんじゃないかとすら思えてきた。
セックスは嫌いじゃない。
セックスってお互いを愛し合う行為っていうのが前提の行為で、すっげー素敵なことなんだと思うんだよ。
だけど崚ってば俺のことは全然考えてくれなくて自分のことばっかだし、嫌になることもある。
情事が終わり、クタクタになりながらも二人でお風呂に入ったが会話がないまま時間は過ぎた。
「はぁ……………」
ベッドの中に入って、崚が来るのを待った。
嫌だ嫌だと思っても俺は崚が好きだから離れることは出来ない。
一緒にいられる時間があるならずっと一緒にいたい。
「…………寝た?」
「まだ………」
そう言うと俺にくっつくようにベッドの中に入ってきて、俺の機嫌をとるように頭を撫でてくる。
「ごめんな、怒らせたいわけじゃないんだ」
「………………うん、俺も……ごめん」
知ってるから、怒ってるって言えないんだ。
明日もあるから早く寝たくてベッドランプを消した。
「……おやすみ、千榛」
「おやすみ」
崚の胸に耳を当てるような形で眠りにつく体勢をとった。
早く寝なければ、と思えば思うほどなぜか眠れなくなってしまうのはどうしてだろう。
時計を見れば、もうかなり遅い時間で日付を超えてしまっている。
時間が流れるのがとても早く感じて、更に焦る。
隣にいる崚は気持ち良さそうに寝息をたてて眠っている。
そんな崚を起こさないように、そっとベッドを抜け出してキッチンへ向かった。
夜の静かな空気が充満して、少しだけ肌寒く感じた。
マグカップに牛乳を入れてレンジで温める。
ほんのり温められたホットミルクをちびちびと啜りながら飲んだ。
眠れない時にこれを飲むとすぐに眠たくなる。
少ししてから飲み終えたマグカップをシンクに置いてベッドに戻った。
良かった、崚は起きてないみたいだ。
体が温まってきて、それからすぐに俺は眠りにつくことが出来た。
**
「社長、御影さん、おはようございます」
「おはよう」
「あぁ、おはよう………じゃあまた」
「はい、失礼します」
会社まで、崚の車で一緒に行ってエレベーターを降りてから別れた。
会社の人間は俺と崚を微笑ましそうに見てきたり、羨ましそうに見てきたりと反応は様々だ。
こんなにたくさんの人に崚との関係を認められているのだと考えると時々自己嫌悪に駆られる。
だけど崚は俺が良いって言ってくれるんだ。
こんなに嬉しいことは他にはない。
今日も一日、頑張ろう。
*
「なあ矢垣、ちょっと話聞いてくれよ」
「なんでしょう?」
崚は社長室で、社長秘書の矢垣に話しかけていた。
「…………千榛はさ、前は不眠症の気があって眠れない時は処方された睡眠薬を使ってたんだ」
「……不眠症の話は以前も伺っておりました」
今は前より眠れるようになったみたいで薬を使ってるとこなんて滅多に見ない。
「付き合って半年ぐらいの頃、俺の家に泊まりに来たことがあったんだけどその時はまだ薬使ってたんだよ。」
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