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「見た目キレイ系やのに、よお手つかずで今までおったなあ」 「何の話?」 「めっちゃ俺の好みやって話」  好み? 何が?   不思議に思って訊こうとしたら、低い声が割り込んだ。 「そこまでにしてもらおか」 「どないした、怖い顔して」 「俺が口説いてんの知ってて横槍入れんな」 「そやけど通じてへんやん」 「うるさいわ、お前は手も口も出すなや」 「先着順ちゃうやろ。転校して来て二週間経っててまだこんな感じなんかい」  苦虫を噛み潰したような顔になる奴に委員長はにやにやと人が悪い笑顔を浮かべた。 「選手交代の時期とちゃうか?」 「やかましーい。でもべろは舐めたで」 「なんやそれ、べろちゅーしたん? 嘘やろ?」  奴と委員長が僕を見るから、うなずいた。 「ううん、ほんと。舐めたけど、でも」  ちゅーじゃなくてたこ焼きでやけどして、なんて事情を説明する間もなく「うっそおー」と聞き耳を立てていたらしいクラスメイトの悲鳴混じりの声が上がって教室は騒然となった。

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