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「そりゃそうだよ。風呂は男女別でしょ?」
「……風呂?」
遥清がうろんな顔で僕を見た。
「え、ひょっとして大阪では混浴なの?」
文化の違いってすごい、と驚く僕に智嗣が笑いながら訊いた。
「有馬、いつ見せたって?」
「だから中三の修学旅行で。風呂で見せ合いっこ、みんなするよね?」
他人のそこが気になるお年頃だから、せーのでタオルを取った。ま、別に見たからどうってことはない、誰のがでかいとか色がどうこうとかもう大人みたいとか盛り上がったけど、それだけだ。
「うんうん、やるやる。な、遥清」
智嗣はまた爆笑していて、遥清はなぜか、床にしゃがみ込んでいた。
「どうしたの?」
「……いや、何でもないねん」
俺は今ちょっと立ち上がる気力がないねん、と遥清は床を見つめている。何かよくわからないけど、落ち込んでいるらしい。
「遥清、まあ落ち着けや」
「落ち着いとるわっ」
「有馬がそんなんするわけないやろ?」
「わかっとるわ」
「遥清、どうしたの? どこか痛いの?」
「気にせんでええ。遥清は自分の汚れ具合に落ち込んどるんや」
「どっこも汚れてないよ?」
「精神的な話や」
精神的な?
首を傾げる僕に智嗣がぽんぽんと肩を叩く。
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