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Page3:期待したキョウダイ
リビングに入った俺は、言葉を失った。
「………。」
「………。」
失う他ないだろう。だって、何故か目の前には先ほど衝突事故のようなものを起こした相手が立っているんだから。
「京介さんの息子さん、シュンくんよ。歳はナオと同じだからね。」
「シュン、ナオくんと仲良くするんだぞ。これからは、"兄弟"なんだから。」
「…兄弟。」
声に出して呟くと、昨日妄想した美人で可愛い女の子達が一瞬にして崩れていった。
「関係ない」なんて言っても、俺は淡い期待を持たずにはいられなかったんだよ…。
「早川俊(はやかわ しゅん)です…。よ、よろしく…お願いします…。」
「ほら、ナオも。ちゃんと挨拶して。」
「…佐伯奈央(さえき なお)…よろしく…。」
相手の目を見て言えるはずもなく、少し俯きながら小さい声で挨拶をする。でも内心では、こんな事ってあんまりだ!と叫び倒していた。
「…母さん。」
「嘘は何一つ言ってないわよ。それでも何か言いたいことがあるなら聞くけど?」
「………。」
やり場のない感情を視線に乗せて母さんを睨むが、結局何も言い返せなくて、母さんはフフッと笑う。
昨日の今日だから、きっと俺の言いたい事はわかっているんだろうが、違うんだ。そりゃ、初対面で相手が男でしたっていうオチに対してはその解釈で当たっている。
けど、母さんたちが知らないところで俺は、これから家族になる人の前で、俺は…!
「あ、あの、さっきの…僕、気にしてないから、ね…?」
射精してしまったんだぞ!?ていうか、自慰行為を見られているんだぞ!?こんなの、消えたくなるでしょうが!!
「……うん…。」
両手で顔を覆い、俺は考えるのをやめた。
「さて、部屋なんだけど…。実はシュンくんの部屋、まだ片付いてないから当分ナオの部屋で寝てもらっていいかな?」
「は!?俺の部屋!?」
追い討ちをかけるような爆弾発言を落とされ、大声を出す。その声にビクリとシュンくんの肩が跳ねたのが、視界の片隅で見えた。
「そうよ。ナオの部屋にはソファーベッドあるし!」
「えっ、いや、あるけど!…じゃ、じゃあ、京介さんは!?」
「私と一緒に決まってるじゃない。」
「決まってるじゃないって、アンタ…。」
「もぉ!細かいことばっかりうるさいわよ!さて、シュンくん!部屋に荷物置いていらっしゃい?ナオは手伝ってあげてね。終わったら降りて来て、ご飯にするから!はい、解散!」
母さんは言うだけ言って、パン!と手を叩き、鼻歌を歌いながら京介さんとキッチンへと消えていく。
「…いこうか。」
「…うん。」
残された俺たちは、気まずい空気に包まれながら、のそのそと二階へ上がった。
「…えっと、狭いかもしれないけど好きに使っていいから…。」
「ありがとう。」
「うん…。」
部屋にシュンくんを招き入れたのはいいが、まさか同室なんて予想していなかったため、掃除なんてしてるわけもなく。
「き、汚くてごめん…、掃除しとくから…。」
「や、全然大丈夫だよ!むしろ急に来てごめんね…。」
「いやいや、元はと言えば、部屋を確保してなかった俺が悪かったと言うか…ごめん…。」
お互いペコペコと頭を下げ合い、罪悪感に押し潰されて泣きたくなった。
「…あー、えっと、なんか手伝うことある?」
「あ、いや、そんなに荷物ないから大丈夫!ありがとう。」
「そっか…。」
手伝うこともなけりゃ、話題もない。何もすることがない俺はベッドへ腰掛け、自分の荷物を片付けるシュンくんを観察する。
同い年なのに現役ニートの俺と、現役大学生のシュンくん。ダル着で寝癖がついてる俺と、オシャレで少しクールな雰囲気があるシュンくん。
比べれば比べるほど、天と地というか、月とスッポンというか、アリとゾウというか…(?)、まぁなんだ、自分のHPが凄く削られていった。
「…よし…あ、待たせてごめんね。そろそろ下、行こうか。」
「う、うん…。」
同じ部屋だし、家族だし、兄弟だけど…、あんま関わらない方がお互いのためなのかもね。
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