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Page6:俺はあなたのお友達
家の近くにコンビニは二件あって、徒歩六分くらいの所と徒歩十三分くらいの所。
普段は近い方で済ますけど、今日は天気も良かったから数ヶ月振りに遠い方へ行こうと思った。
「いらっしゃいませー。」
店内に入ると、入店の音楽を合図にレジにいた男性店員が反応する。ピークが終わったからなのか、元々過疎っているかなのかは知らないが、店内はガランとしていた。
「あっ、生チョコのブラウニー!めっちゃうまいやつだ!」
大好きなお菓子を三つと、アイス、昼飯用のサンドウィッチをカゴに入れる。そこで、ふとシュンくんにも何か買っていったほうがいいのかなという疑問が生まれた。
なにが好きとかわからないけど、帰ってきた時俺だけ食ってるのはなんか…。
「うーん…、超満足ゼリーにしようかな。」
チョコ系好きって言ったらブラウニーあげればいいし!と思いながらレジに向かう。
「お願いしまーす。」
「あーい、いらっしゃいま…、せ…。」
「…?」
店員は何故か俺の顔を見て数秒間固まったと思ったら、その後ハッと我に返り、商品の読み込みを始めた。
最初こそ謎に思ったが、そこまで気にすることもなく、レジに表示されている値段をみて財布を開く。
「…お会計、八百五十円になります。」
「えっと…、じゃあ、これで。」
「…お返しが百五十円になりまーす。」
「あ、はい。」
店員からお釣りを受け取ろうと手を出した時だった。
「ひぇっ!?」
「………。」
「えっ、なに…、えっ!?」
店員は俺の手の平にお釣りを置いて、何故かそのまま手をギュッ握ってきた。
「ア、あの…?」
無言のまま、未だ離そうとしない彼が普通に怖くて、声が裏返り、手にじわりと嫌な汗が滲んできた。
「…ナオだろ。」
「ファッ!?」
突然名前を呼ばれ、ビクッと肩を揺らす。するとやっと顔を上げた彼は、ニッと笑った。
「久しぶりじゃん、ナオ。」
「……ソウ?」
その顔には見覚えがあって、昔の記憶が脳裏をよぎる。
小中と同じ学校で、家が結構近いってのもあったソウとは特に仲が良かった。高校から学校が別になり、それっきりになっていたけど。
「おう、やっとわかったか。」
「久し振り…、え、全然気付かなかった!いつからここに?」
「もう半年くらい経つぜ?ナオん家、この辺だったよな?」
「う、うん…。」
「たく、近い方のコンビニばっか行ってんなよ。」
「だって、…近いし…。」
図星を突かれ思わずもごつくと、ソウはブハッと吹き出した。
「ハハッ変わらないな、お前。なぁ、今度遊ぼうぜ。連絡先教えて。」
「あ、うん。」
「つか、もうすぐ休憩だから少し待っててよ。」
「え、でもアイス…。」
「じゃあ一旦家帰って、また来て!」
「わかった。」
数年振りだし、俺はニートで予定もないし、まぁ言うなら暇だから、返事は一つしかない。
また後でな!と言って接客に戻るソウに手を振り、俺は急いで家に帰った。
「…ナオくん?」
「んぐ…っ!?…んむ、ひゅんふん!(シュンくん!)」
「あ、驚かせてごめんね。…大丈夫?」
昼ご飯のサンドウィッチを食べながら、買ってきたものを冷蔵庫へ入れてる時、急に後ろから声をかけられ、喉に詰まらせそうになる。
振り向くと、心配そうに俺を見るシュンくんがいた。
「んっ、大丈夫だよ!てか、早いね?もう学校終わったんだ?」
「うん、最後の講義が休講で…って、何してるの?」
「ん?あぁ、これね、さっきコンビニ行ってアイスとか買ってきたから冷蔵庫に…あ、ゼリー好きだったらこれ食べてね。シュンくん用!」
「えっ!僕のあるの?お金…」
「あっ、お金はいらないよ!俺が勝手に買ってきたやつだから!チョコも好きだったらブラウニーも食べていいからね!」
「そんな、わざわざごめんね。ありがとう。」
「気にしなくていいよ!…っと、いけね。もう行かなきゃ。」
時計を見ると、家に着いてから十分程経っていて、残りのサンドウィッチを急いで口に詰め込んで、玄関へ向かう。
「どこか行くの?」
「うん、さっき行ったコンビニに友達が働いてて、もうすぐ休憩だから荷物置いたら来てって言われてさ!」
「…そうなんだ。」
「うん!じゃあ行ってく…」
「ナオくん、僕も行っていい?」
「えっ?」
てっきりお見送りしてくれるのかと思ったら、何故かシュンくんも行きたいと言い出した。
特に断る理由はないが、俺はソウと話しに行くだけだから一緒にはいれないけどいいのかなって思ってすぐ、コンビニに用があるなら自分は関係ないという結論に至って、了承する。
「ナオくん、早く行こう?」
「あ、うん。」
こうして、二人で家を後にした。
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