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Page9:寝心地悪しなの?

「あれ、シュンくん寝てる。」 風呂を出てリビングに行くと、シュンくんがソファーで寝息を立てていた。 学校へ行きながらの慣れない家での生活は、やっぱり疲れるんだろう。 「髪は乾いてるからいいけど、ここで寝てたら風邪ひくよなぁ…。」 「スー…、スー…。」 寝顔を見ると起こすのも可哀想に思えてきて、小柄なシュンくんくらいなら自分で運べるかもと、手首を鳴らした。 「よっ、と…!…ふぐぅ!」 起こさないようにソッと抱き上げたシュンくんは、想像以上に重く、寝ている人の重さを完全に舐めていた俺は息を止めて踏ん張る。 触れてみて初めてわかった腕とかの逞しさに、ニートで腹がプヨっている自分も、少しは鍛えたほうが良さげだと思い知らされた。 「っかはぁ!はぁ…はぁ…。」 なんとかベッドに寝かせることができた俺は、その場に座り込み息を整える。階段がなかなかキツくて、何度か落としそうになったけど、最後の力を振り絞り頑張った。 「んん…、スー、スー…。」 「…おやすみ、シュンくん。」 未だスヤスヤと気持ちよさそうに寝てるシュンくんを見て、運んでる途中で起きなくてよかったと思いながら布団をかけ、電気を消して部屋を後にする。 それから七時過ぎに母さんが帰ってきて、シュンくんはもう寝たと伝えると、母さんも、「慣れない生活に疲れたのかもね」と言っていた。 八時過ぎには京介さんも帰ってきて、三人でご飯を食べた後、シュンくんのご飯にラップかける。一応、夜中にお腹が空いて起きても大丈夫なように。 「じゃあ俺も寝るよ、おやすみ。」 寝支度を終えた俺は、母さんと京介さんに声をかけて二階へ上がった。 「ふー…。」 暗い部屋のソファーベッドに倒れ込む。聞こえてくるのは、時計の音とシュンくんの寝息。 「……あ。」 そこでようやく、スマホの存在に気が付き、見ると不在着信が表示されていた。 「しまった、サイレントモード解除し忘れてたな…。」 真っ先にお風呂でのことを思い出すが、出れなかったものは仕方ない、と発信ボタンを押す。 コールが鳴る中、寝てる人がいるのに電話はマズイかなと思うも、動くのが面倒臭くなった俺の悪い癖。小声ならいいかな…なんて、ソウが出るのを待った。 『…もしもし。』 「あ、もしもし?ソウ?」 『ナオか?』 「うん、さっき電話出れなくてごめん。」 数時間前に会ったけど、そもそも会うのが久し振り過ぎて、電話越しでもまだ懐かしさが残っていた。 『いいよ、バイトの終わり時間言ってなかったし。…つか俺もメッセすりゃよかったな〜。次からそうするわ。』 「うん、わかっ……っうわ!」 『?どうした?』 「…あっ、いや、なんでもない。」 『そうか?…んじゃ、そろそろ寝るわ。また連絡する。』 「おう、おやすみ。」 ソウが電話を切ったのを確認して俺も切る。 そして、スマホを置いて横を見た。 「…シュンくん?」 「うんん……。」 抱き枕のように俺を抱き締めたまま気持ち良さそうに眠るのは、俺のベッドで寝ていたはずのシュンくんで。 「俺のベッド寝心地悪いのかな…。」 電話してる時に、また寝惚けてソファーベッドに来たみたいだった。 「俺があっちに行くか…。」 よかれと思った事が裏目に出た気持ちになりながら、移動しようとする。 「…わっ!」 「ん〜…。」 だが、まるで動くことを拒否するかのようにシュンくんの手に力が入り、動きを封じられた。 「マジかよ…。」 どうする事も出来なくなった俺は、諦めてそのまま寝ようとしたが、誰かに抱きしめられながら寝ることなんて今までなかったからか、慣れない感覚になかなか寝付ける事が出来ない。 昨日みたいに、自分が元々寝ていればまだよかったのになぁ…なんて考えながら大人しく目を閉じた。

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