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Page12:優しく微笑む悪魔
それから俺は仕方なく…そう、仕方なく!一回抜いてからリビングのソファーで寝ることにした。一応母さんたちの部屋は一階だから、俺たちの声とか聞かれてないはず。
…聞かれてたら俺はもう生きていけない。
「はぁ…。」
ため息をついてソファーに寝転び、置いてあったブランケットを腹にかけた。
「やっぱり関わらなきゃよかった。これからは距離を置いて過ごしてやる。…同じ部屋だけど。」
シュンくんが俺と兄弟になろうとしてくれて嬉しかっただけに、裏切られた気持ちが増して不貞腐れる。
初めから赤の他人と兄弟なんて言われて、仲良く過ごそうとしたのが無理だったんだ。
「…もう知らん、あんなやつ…。」
思い出して、再びはぁっとため息をついて目を閉じた。
「…戻ってこないと思ったら…。こんな所で寝たら風邪引くでしょ。」
「ン〜、もうたべられない…むにゃむにゃ。」
「…ふふっ、かわいいなぁ。」
それから数十分後、心配したシュンくんが俺を軽々抱き上げては、難なく部屋に運んでいた事なんて知らず、俺は夢の中で大きなプリンをお腹いっぱい食べていた。
「………。」
「ん?ナオくん、どうしたの?般若みたいな顔して…。」
次の日、シュンくんが学校から帰宅して部屋に鞄を置きに来た時、俺は腕を組んでシュンくんの前に立つ。
「…なんか言うことは?」
「え?…あ、ただいま!」
「おかえり…って違う。そうじゃない。」
「えーなんだろ?…あ、もしかして…。」
やっとわかったか。
「生チョコブラウニー、二つ食べたのバレた?」
「そう、昨日勝手に俺を部屋に運ん…え!?なんて!?」
「おっと?」
「二つも食べたのか!?」
「うん、美味しくってつい…。ごめんね?」
驚く俺に、自爆しちゃった☆と言わんばかりの全然反省してない顔で俺に謝る。そんなシュンくんの態度に、ブチッと俺の中で何かが切れた。
「っも、もういいっ!!」
「えっ!?ナオくん!?」
我慢出来ずに部屋から飛び出し、誰もいないリビングへ駆け込む。
なんだアイツ!昨日俺のこと勝手に部屋に運んだりしてさ!そのことについて、勝手なことするなよ!とかいってやるつもりだったのに!!
それなのに、俺の…っ、俺のお菓子をっ!!
「うっ、ひどい…っ!」
ゼリーまであげたのに図々しい!もう腹立つ!腹立ちすぎて泣けてくる!!
俺はこのやり場のない怒りと悲しみをぶつけたくて、ソウに電話した。
『…はい、もしもし?』
「もしもし…っソウ…?」
『ナオ?どうした?泣いてんのか?』
「うっ、聞いてよ…っ!俺の、俺のお菓子…っ!食べられたぁっ!!」
『お、お菓子っ?』
「生チョコのっ、ブラウニー…!昨日買ったやつ!食べられた…、うぅっ…。」
『シュンくん?…に、食べられたの?』
「うん…。」
涙を手の甲で拭きながら、鼻をすする。泣いている俺に驚いているソウの声は、くだらな過ぎて驚いているようにも聞こえるが、今はそんな事はどうでもいい。
『…へぇ、喧嘩するほど仲良くなったのか。』
「違うっ!そんなんじゃない!俺は…っ!」
「ナーオくん。」
「っ!?」
どこをどう取ったのか、変な誤解をするソウに反論しようとした瞬間、背後から名前を呼ばれて振り向くと、リビングの入り口でニコニコしながらシュンくんが立っていた。
それは、昨晩見たのと同じ…。
「誰と、なんの話してるのかな?」
「………。」
悪魔の優しげな微笑みだった。
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