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Page20:甘々のち苦々
「はい、ついたよ。」
「な…、な……。」
部屋に着くとシュンくんは俺をベッドに下ろし、俺はプルプルと震える。
「ん?ナオくん?」
「なにやってんの、アンタ!」
「え?」
「いっ、いきなり…っ!自分で歩けるわ!!」
カァ!と顔を赤くさせながら、シュンくんに抱っこされた事の恥ずかしさを爆発させた。
「だってナオくんが可愛すぎてさぁ…。」
「っわ!」
「我慢できなかったから…。ごめんね?」
「…っ、」
怒る俺に怯む事もしないシュンくんは、トンッと肩を押して俺を押し倒し、ベッドを軋ませながら馬乗りになる。
徐々に近くなるシュンくんの顔に、ドキドキと煩いくらい心臓が鳴った。
「…あ、いけない、いけない。」
「うっ?」
唇が触れるまであと数センチのところで、何かを思い出したシュンくんはスッと離れ、俺から抱える様にして持っていたバスタオルを取り、俺の尖らせた唇を見て笑っては人差し指をチョンと当てた。
「ちゃんと敷かないとね。」
「んぅ?敷く?」
俺が体を起こしてベッドから降りると、シュンくんはバサっとシーツの上からバスタオルを敷く。それが何を意味するのか理解した時、ここにきてやっと現実味が出てきた。
「だって、これからイイコトするでしょ?」
「イ、イコト……。」
これから行われるであろう行為が果たしてイイコトなのかどうかは置いといて、もしかしなくても俺はとんでもない状況下にいるのでは…?
「ん?どうしたの?怖いの?」
「あの、やめるという選択肢は…。」
「あるわけないでしょ。」
「デ、デスヨネー。」
今更冷静さを取り戻しても、時すでに遅しと言うもので。
「ナオくん…、かわいい。」
再び優しく押し倒された俺は、俺の上に跨るシュンくんを見つめた。
「…シュ、シュンくん…、あの…。」
頬に触れるシュンくんの手に、ピクリと反応しつつとある疑問が頭に浮かぶ。
「ん?」
「…俺、下なの?」
「何言ってんの、当たり前でしょ。」
あ、当たり前!?
「えっ、でもっ!」
「うるさい。何を言おうとナオくんは下!」
「………。」
「ふふっ、大丈夫。ナオくん可愛いから♡」
「う、嬉しくない…。」
可愛いのはシュンくんの方なのに…なんて思いながらフイッと視線を逸らし、俺の頬にあるシュンくんの手にすり寄った。
「…拗ねるナオくんも可愛いよ。」
「…っ、」
ちゅっと俺の額にキスを落とされ、なんだかとても甘やかされている気になったその時。
「さて、イイコトするの前に聞きたいことあるんだけど。」
「え…?」
「アイツと、何した?」
甘々だったシュンくんの声のトーンに針金が通ったかのような鋭さが加わり、俺は思わず目を見開く。その視線の先にはニッと微笑むシュンくんがいて、背筋を凍らせた。
「い、や…、なにも…?」
「…ふふっ。」
「エへへ…。」
ドクンドクンと心臓が大きく脈を打ち、脳内に警告音が鳴り響く。
本当のことを言ってしまえば、きっとタダでは済まない…そう思って咄嗟に嘘をついて、釣られるように笑った。
「そっかぁ。嘘ついたらどうなるかわかった上での答えが、それでいいんだよねえ?」
「……いえ、違います…。」
だが、シュンくんが放つ圧に嘘がバレている事を確信した俺は、これ以上誤魔化せないと諦める。さっきの甘い空気が嘘のように、今度は冷たい空気が俺を包み、冷や汗を垂らした。
「あ、そう?じゃあもう一度聞くね。…何したのかな?」
「…な…れ、した…。」
「聞こえない。」
「耳舐められて一発抜かされました。」
口ごもり作戦もシュンくんには通用せず、半分ヤケクソになって目を逸らしながら口早に答える。
シュンくんに嘘は通用しないし、ならこれでこの空気から解放されるならば…!と素直に本当の事を言った。
「…へぇ、他には?」
「え、それだけ…。」
「ふーん…。で、荷物は?」
「え?」
「宅配だったって言ったよね?その荷物はどこにあるの?」
「っ!」
次から次へと畳み掛けてくるかのように質問をしてくるシュンくん。
一難去ったと思ったらもう一難やってきて、あのその…と目を泳がせる。
「え?なに?聞こえないなぁ。」
「だ、だって…。」
「だって?」
「ケ、ケンカになると思って…その……。」
「へぇ。ケンカになるのを避けようとバレる嘘をついて、後から自分がお仕置きを受ければいい…と?そう考えたわけだ?」
「っちが、だけど…!」
「ナオくん。」
「…はい。」
「残念ながら今日は、イイコトじゃなくてお仕置きだねえ。」
「そ、そんな…!」
「返事は?」
「…へい…。」
理不尽すぎて抗議したい気持ちは山々だが、目が笑っていないシュンくん相手に刃向かう勇気など持ち合わせていない俺であった。
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