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Page25:食べちゃうよ?
「ナオくん。」
「うーん、この国に必要なのは、わたあめとチョコレート……。」
「ナーオくん。」
「甘党を作り、世界に革命を…!」
「ナオくんってば!」
「ッハ!……あっ?」
大きな声で名前を呼ばれ、バチッと目を開き、覚醒した。
圧倒的支持率を得て、大衆の喝采に気分が上がった世界とは打って変わり、静まった部屋に見慣れた天井があって体を起こすと、横では肩を震わす声の主がいる。
「あはは…っ!」
「…ちょっとぉ…、笑わないでよ…。」
先ほどの心地良い世界は夢だったと理解し、ただただ寝言を聞かれたことへの羞恥心が募る。
「ふふっ、何の夢見てたの?」
「…忘れた。」
「ふーん、そっかぁ………んふっ!」
「なんでまだ笑ってるの…!!」
「や、ナオくんの頭…っははは!」
「え……、うわっ!爆発してる!」
ヒーッとお腹を抱えて笑うシュンくんが、俺の頭を指差すもんだから、急いでベッドから飛び降りて部屋の隅にある全身鏡を見ると、髪の毛があちこち跳ね上がってた。
「すごい寝癖だね!」
「あぁ〜…昨日乾かさないで寝たか…ら……?」
そこで、ふと思い出す。
「…ん?ナオくん?」
あれ、俺って昨日…、シュンくんと……何した?
「……っ、」
自分の言葉で昨晩のことを思い出し、カッと顔が熱くなる。
今の今まで忘れていた。昨日の、痴態を……。
「おーい、ナオく……ふふっ、ねえ、昨日は楽しかったね?」
「っ!?」
俺の反応に全てを察したシュンくんが、口角を上げて微笑む。自然と出るような綺麗な笑い方ではなく、それはもう意地悪で。
「まさかあんなエッロい姿見れるとは思わなかったなぁ。」
「な…っ!」
俺を揶揄うのが楽しくて仕方がないと、目がそう言っていた。
「なんだっけ?おれのえ...っむぐ!」
「ううううるさい!!」
「………。」
「あっ、あれは違うから忘れ…っひゃ!」
俺が言わされた恥ずかしいセリフを、ニヤニヤしながら言おうとするシュンくんの口を手で塞いだ時、手のひらにぬるっとした感触がして、思わず声を上げた。
「ちょっ、舐めちゃ…っ!〜〜〜っ!」
俺の手のひらを舐めるシュンくんは、反応を伺うかのように俺をジッと見つめる。
俺はその目に耐え切れず、パッと手を退かした。
「…僕に触ると食べちゃうよ?」
にやりと少し口角を上げ、ペロッと唇を舐めたシュンくんに一瞬魅入るも、それが本気に聞こえてブルッと身震いする。
「さ、さーて、朝ごはん朝ごはん……。」
「ふふっ、行こうか。」
視線を逸らし、逃げるように部屋を出ようとする俺の後を、楽しそうな顔をしながらシュンくんもついて来た。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。」
「おはーでマヨちゅ…」
「冷めないうちに食べちゃいなさい。」
懐かしさが残るちょっとふざけた挨拶を容赦なくスルーされるも、何事もなかったかのように座ってご飯を食べ始める俺を見たシュンくんは、声も出さずにプルプルと肩を震わす。
「シュンくん、早く食べないと俺が食べちゃうよ。」
「それは、困る…っふふふ…!」
「いつまで笑ってんの!」
ぺしっと肩を叩くと、「ごめんごめん」と笑いながら謝り、シュンくんもご飯を食べ始める。
朝食は、目玉焼きトーストにサラダ。俺は和風ドレッシングをかけたけど、シュンくんはゴマドレッシングをかけているのを見て、何も知らないシュンくんの事を、これからこうやって知っていくんだ…なんて、「知っていく事」に少しだけ心を弾ませた。
「じゃあ、そろそろ行きます。」
「え…。」
「はーい。忘れ物ないように、気を付けてね!」
ソファーでゴロゴロしている時、いつの間にか着替えも準備も終えたシュンくんが、一言俺たちに声をかけ、そのまま玄関に向かう。洗い物中の母さんがその場で返事をしたけど、俺はパタパタとシュンくんの所へ行った。
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