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Page29:ざわ…ざわ…

「ハハッ!もう逃げられねぇ、観念しな。」 「お、おま…っ、離せよバカ!俺はお前を許した覚えはない!!」 「あ?許すって…、別に悪いことしてなくね?」 「!?」 ガーッと怒り散らす俺に反省の色を見せるどころか、そもそも悪いと思っていなかった事に驚愕し、見開いた目をソウに向ける。 「いやほら、なんだかんだナオも気持ちよさそうってか、気持ちよかっただろ?」 「な…っ!」 「ま、そういうことだ。」 「お、お前…!なんて奴…っ!」 未だ首に回るソウの腕を掴みながら、ギリィと歯軋りをしてソウを睨み上げると、ソウは怯むどころか楽しそうに笑った。 「…あ?おい、ナオん家の前、誰かいるぞ。」 「えっ?」 ヘラヘラしてたソウの表情が少し真面目になり、俺たちは足を止める。 ソウに追いかけられた事もあって、気が付けばもう自分の家の近くだった。 そこには、確かに家の前に人がいて。 「あれ、シュンくんじゃん。」 「…だね。」 「なんか女といるな。」 「…だね。」 「知り合い?」 「…俺は知らん。」 「なんか…、女、泣いてるね。」 少し距離はあるけど、女の人の涙はハッキリ見えた。 …なんか見てはいけないものを見てしまうような、そんな予感に胸がザワザワと騒ぎ出す。 「「あ。」」 嫌な予感ほど、よく当たる。 「あらら〜、こんな場所で…。」 「………。」 俺はその光景に絶句した。 「…ソウ。」 「ん?」 「行こう。」 「えっ?行くってどこに…。」 俺は、早くこの場から逃げたい一心でソウの腕を引っ張りながら、家とは逆方向に歩き出す。 「ナオくん!」 不意に背後から俺を呼ぶ声が聞こえ、ピタッと足を止める。タッタッタとこちらへ小走りするような足音で、シュンくんが駆け寄ってきたのがわかった。 だが、一切振り向かず俺は背を向けたまま、再び足を動かす。 「ね、どこいくの?」 「………。」 「プッ!教えるギリはね…」 「ナオくん、帰ろうよ?」 「………。」 「ハハッ、無視されてや…」 「ナオくん、こっち見て。」 「………。」 「嫌だそうで…」 「ナオくんってば!」 「いい加減にしろ!!」 返事をしないで俺に話しかけるシュンくん。そんなシュンくんに言葉を遮られ続けたソウがついに怒鳴った。 「…なに、アンタ。」 「さっきから俺の事無視しすぎじゃね!?」 「いや、初めからアンタに話しかけてないし。部外者は黙ってて。」 「んだと…?」 二人の会話はピリついていて、きっとお互い睨み合ってるに違いない。 「ねぇ、ナオく…」 「…っソウ!早く行こう!」 「え、うおっ!」 グッと歯を食いしばり、今度は俺がシュンくんの言葉を遮ってソウの腕を引きながら走り出す。 「へへへ〜!ばいびー!」 俺とシュンくんの会話はないまま、ソウの言葉だけが背中で響いた。

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