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Page31:帰りたくない

「はっ?」 「はい、お前も立って。」 「えっ?えっ、待…っぅわ!」 ニッコリ笑い、突然立ち上がったソウにグイッと勢い良く手を引かれ、その反動で立ち上がった俺は、何がなんだかわからないままソウのペースに乗せられる。 「忘れもんはー、ないな。よし、行くぞ。」 「ちょっ、ソ…ぅ、ぁ…っ、」 結局何も言わせてもらえず、二人でソウの家を出た。 「…ぁ、はぁ…っ、はっ、ン……、」 「…ナオ。」 「ん…っ、はあ、ぁ…っ、」 「おい、ナオ。」 「…ん、だよ…。」 火照る体に息を少し荒くしながら、そうさせた張本人を怪訝な顔で見る。汗がコメカミから頬を伝って、地面にポタリと垂れた。 「歩いてるだけで感じすぎ。」 「っ、誰のせいで……ってか、どこ、向かってんだ…っ?」 ふと、自分がどこに向かって歩いているのか知らない事に気が付いて、思わずキョロリと辺りを見渡す。見慣れた風景に、少しだけ眉間にシワを寄せた。 「ん?ナオの家だけど?」 「は…っ?」 「送ってやってんの、ナオの家まで。」 決まってるだろと言わんばかりな顔で俺を見る。けど、当然家にはシュンくんもいて。 「な…っ!嫌だっ!」 「コラ、暴れんなー。」 あんな別れ方をした今、俺に帰るなんて選択肢はなくて、イヤイヤと首を振って手に力を入れた。けど、こんな体では上手く力を入れる事も出来ず容赦なくズルズル引きずられる。 今の俺がソウから逃げることなんて出来ない。そんな事わかってる、けど…。 「嫌だって!帰りたくない…今は…っ、ソウ!」 「うっせーな。じゃあ俺んち戻るか?いいぜ?このまま引き返しても。その代わり、次はやめてやんねぇぞ。」 「……っ、」 「どうすんだよ。このまま引き返すか、大人しく帰るか。」 「…っソウ、ずるぃ…っ!」 「…黙って帰るぞバカナオ。」 手を引かれ、二人でゆっくり俺の家に向かって歩き出す。シュンくんに会いたくない気持ちと、今はまだソウと一緒にいられない気持ちが複雑に絡み合う。 …あぁこれは、涙も止まらないわけだ。 「も、い…から…っ!」 数分後、俺は足を止めた。 俺の家はもうすぐそこ。 「………。」 「も、ひとりで行ける……。」 顔を合わせた二人がまた喧嘩するのも嫌で、スッと手を離す。ソウの体温が残っている手のひらを、今度は冷たい空気が包んだ。 「…ちゃんと帰れよ?」 「っゎかってる…!」 「ん。じゃあ、またな。」 「ぁ…っ!」 すりっと手の甲で頬っぺたを撫でられ、ピクッと反応してしまう。 「…んな声だすなよ、勃っちまうだろ。」 「好きで出してんじゃねぇよ…っ!バカッ!」 「はいはい、わかったよ。じゃあな。」 ソウは、ガーッと怒る俺を軽くあしらって、ヒラッと手を振り帰って行く。 残された俺は、見えなくなるまでその背中を見ていた。途中、涙で視界が歪んでも、見えなくなるまで、ずっと…。 「…ほんと、なんで……、なんで、こんなことすんだよぉ……、ソウのばかぁ…っ!」 溢れて止まらない涙をゴシゴシ擦る。 後先考えずに擦った目は、きっと赤くなって、少し腫れているに違いない。 本当は帰りたくないけど、こんなに泣いた顔で出歩く事もできなくて。 「…ただいま…。」 泣き止んだ後、諦めて静かに家の扉を開けた。

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