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Page32:きらいだ

「おかえり。」 「…っ、た、だいま…。」 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だったのに、リビングからシュンくんが出てきた。 「…?ナオくん?」 「…ぁっ…、」 動揺のあまり、靴を脱いでもその場から動けずにいる俺を、不思議そうに見ながら近付いてくるシュンくん。 まさか出迎えてくれるなんて思ってなかった俺は、泣いた後の顔だとか、火照る体だとかに気付いて欲しくなくて咄嗟に下を向いた。 「どうし…、…!」 「ひぇっ!?」 だが、逃げ場がない俺の抵抗なんて無意味に近く、察しのいいシュンくんはすぐさま俺の顔を上を向かす。 「どうしたの、この目。…泣いたの?」 「………。」 「顔も赤いし、息も荒いけど。」 「………。」 シュンくんの問いかけに何も言わず、ただギュッと唇を噛んだ。 今口を開いてしまったら、きっと縋ってしまう。けどそんなのは、俺が耐えられない事だった。 「ねえ、ナオくん。黙ってたら分かんないよ?」 「…っ、」 意地でも口を開こうとしない俺に苛立ちの表情を見せるも、シュンくんの瞳はとても冷ややかで、思わず息を飲む。 「アイツに何されたの?」 「……なんも…、されて、ない…。」 「…もういい、来て。」 「え…っ!」 本当のことなんて言えるわけもなく、口ごもる俺に痺れを切らしたシュンくんは、俺の腕を掴んで二階の部屋まで引っ張って行く。 さっき見た冷たい瞳の奥に、熱く燃えるような感情が隠れてたことは当然、気付きもしなかった。 「う…っ!」 部屋に入るなり、俺をベッドへ押し倒す。 馬乗りになって両手首を押さえ、俺を見下ろすシュンくんと目が合った。 「シュンく…、」 「はぁっ…、ナオくんってさぁ、本当に学習しないよね。」 「え……。」 俺の言葉を遮って、シュンくんが大きいため息を落とす。 「いい加減学びなよ。二回目だよね、これ。」 「………。」 「僕を無視してあいつを選んだ結果、何か一つでもいい事あった?」 「…っ、」 「ナオくんが隙だらけだからあいつも…、」 「うるさいっ!!」 俺は我慢出来ずに、シュンくんの言葉に被せて叫んだ。 知ったように、わかったように…、そんなの…。 「シュンくんには関係ないっ!」 「…関係ないってなに。」 「うるさいっ!もう離せよ!!退け!!」 俺の言葉に空気がピリついたのがわかったが、頭に血が昇った俺はジタバタ暴れる。それと同時に、俺の手首を掴んでいるシュンくんの手にグッと力が入った。 「…ナオくん。」 「お前にっ、お前に関係ない…ッ!」 「………。」 未だ冷めない体の熱の所為か、徐々に暴れる力が弱くなり、息が上がる。 「そんなこと言われる筋合いだってない…っ!」 そしてついに、感極まって涙が頬を伝った。 「ぅっ、ふぇ…っ、」 「…ナオくん…。」 「俺は…、俺はみたんだ…。シュンくんが家の前で、女の子とキスしてるの...っ!」 「………。」 ソウと見た、あの光景。今でも鮮明に覚えていて、脳裏に焼き付いて離れない。ソウにされたことよりも、そっちの方がずっと俺の心をかき乱す。 「お前なんか…、きらいだ…!」 自分の意思で発した言葉のはずなのに、ズキンと胸の奥が痛んだ。

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