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Page35:幼なじみ

「ん……っ、ん…?」 目を覚ますと、見慣れた天井が視界に映った。 部屋はもう薄暗くなっている事から、時計を見なくても結構な時間意識を飛ばしていたとわかる。 少しぼーっとする頭で、「夜寝れるかな」なんて不安に思いながら、とりあえずリビングへ向かおうと階段を降りた。 「シュンちゃんは甘いもの大好きだもんね!」 「こら、余計な事言わないの。」 「あら、そうなの?可愛いわね〜。」 ふと、リビングの扉を前で足を止める。 中から聞こえたのは、母さんとシュンくんの声にプラスして、聞き覚えのない女の子の声で、寝起きのまま会う気恥ずかしさがあった俺は、音を立てずにそろっと扉を開けて中を伺った。 「小さい頃、よくルイちゃんにおやつ取られてたよね。シュンちゃんは優しいから何も言わなかったけど、本当は食べたかったんじゃない?」 「そんな事ないよ。取られてたっていうか、好きで僕があげたんだよ。」 「ふふっ、昔から本当に仲が良かったのね。」 そこには四人掛けのダイニングテーブルに座る三人の姿。母さんはこちら向きで座っているが、シュンくんと見知らぬ女の子は背を向けて座っていたため、顔を見る事が出来ない。 「…あらナオ、起きたの?」 「う、うん…。」 けど途中で母さんと目が合い、声をかけられた時、シュンくんと一緒にその女の子も振り向き、俺は目を見開く。 「あなたがナオちゃん?」 「アッ、ドモ……。」 黒髪のロングヘアーにパッチリ二重で、色白で透き通るような肌に、プルプルの赤い唇がよく目立つ。とても可愛らしいその子は、数時間前、家の前にいた女の子のシルエットに良く似ていた。 「えっと、誰ですか…?」 平然を装いながら話しかけているが、母さんの隣に座ろうとする俺の手は汗が滲じんで、ドッドッと煩いほど鳴り響く心臓を静めるのに必死だった。 「あ、私は綾瀬愛依(あやせ めい)。シュンくんの幼なじみです!」 「へー、幼な……えっ!?幼なじみ!?」 「そうだよ〜!」 よろしくね!なんてニコニコするメイさんに、俺は開いた口が塞がらない。 前世で何をしたらこんな可愛い子と幼なじみになれるのか……じゃなくて、これはもう完全に…。 「二人ってもしかしなくても、付き合ってたりするの?」 小さい頃に、「大きくなったら結婚しようね」って甘酸っぱい約束とかしちゃっててもおかしくない。 「あははっ、付き合っ…」 「付き合ってないよ。」 俺の質問に、笑いながら答えようとしたメイさんの言葉を遮ったのは、少し真面目な顔したシュンくんだった。 「付き合ってない。」 「…あ、そうなんだ。」 「うん。」 さっきまで和気藹々と話してたのに、急に真面目な顔になったシュンくんがズズッとお茶を啜り、なんだか微妙な空気になる。 そんな中、「も〜、被せて答えなくてもいいじゃん!」と、シュンくんの肩をポカポカ叩くメイさんに、俺は苦笑いした。 「あ、そういえばシュンくん、今日あれから大学間に合った?」 不意に、母さんがシュンくんに問いかける。するとシュンくんはギクリと肩を揺らして、お茶を飲む手を止めた。 「ここから歩いて行ける距離でも、ちょっと時間かかるでしょ?早い段階で忘れ物に気が付いたから良かったけど、遅刻しなかったかな〜って思って。」 「え?忘れ物?」 シュンくんが答えるより先に、俺は母さんを見る。帰ってきた時、シュンくんはそんな事一言も言っていなかったからだ。 「そうよ〜、途中まで一緒だったからね。」 「シュンちゃんが忘れ物なんて珍しいね〜。」 「あー…えっと……。」 俺たち三人の視線に、シュンくんは言葉を詰まらせ、目を泳がせている。 「…ふふっ、誰かさんが素直じゃないから〜。」 すると、まるで悪戯を仕掛けた子供のようにニヤニヤ笑う母さんと目が合った。 「…母さん、何が言いたいの…。」

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