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Page36:付き合ってる人

「えっ?」 俺の言葉に、シュンくんはパッと母さんを見た。 「うふふ、冗談よ。」 「え?え…?」 「忘れ物って聞いた時、休むのかな〜って思って申し訳なかったけど…、ちょっとからかいたくなっちゃった。ごめんなさいね?」 困ったように笑いながらシュンくんに謝る母さん。この人は、いくつになっても変わらない。 「でたよ、母さんの茶目っ気が。」 「茶目…?」 「昔からそうなんだ。まったく、きっと京介さんも苦労してるよ。」 「そういうところがいいって言ってくれるのよ!」 「どうだか。」 呆れたようにため息をついて横目で母さんを見ると、やっぱり楽しそうで。 「…バレてました?」 「バレバレでした。」 シュンくんと母さんが笑い合う光景に、俺もなんだか嬉しくなった事は言わないけど。 二人のやりとりを見たメイさんだけは、頭にハテナマークを浮かべていた。 「あ、もうこんな時間!そろそろ帰らなきゃ。」 「送ってくよ。」 ふと、時計に目をやったメイさんが立ち上がり、帰り支度をし始める。するとすかさずシュンくんも立ち上がった。 「大丈夫だよ!ルイちゃんが近くまで迎えに来てくれるから!」 にこっと笑い自分の鞄を持ったメイさんは、「お茶とお菓子、ありがとうございました」とお礼を言って玄関に向かって行き、その後を俺たちも付いて行く。 「気をつけてね、またいつでもいらっしゃい。」 「はい、お邪魔しました!」 「何かあったら困るから、僕も行く。」 「そうね、シュンくんも気を付けてね。…ナオは?」 「えっ、いや、俺はいい。」 二人並んでる姿を見たら、俺なんて完全に異物混入だと思い遠慮する。 「じゃあ、ちょっと行ってきます。…メイ、行こうか。」 「ナオちゃん、またね」と笑顔で小さく手を振るメイさんに俺も手を振り返して、扉はパタンと閉じられた。 「さて、夜ご飯作らなきゃ。」 「さて、どう森進めなきゃ。」 母さんは再びリビングへ、俺は自分の部屋へとそれぞれ戻る。電気をつけて、ゲーム機のスイッチを押すと陽気なBGMが流れた。 ゲーム内では俺の分身が、海でサメを釣ろうとスタンバイしていて、集中力を高める。 「…そういえば、メイさんとシュンくんは付き合ってないって言ってたけど、そしたらシュンくんは誰と付き合ってるんだ?…あっ、逃げられた!くそ、次だ次!」 タイミングに合わせてボタンを押さないといけないが、ズレてサメは逃げて行く。負けじともう一度サメのいる所に目掛けて釣竿を投げた。 「…てか家の前でキスしてたの、絶対メイさんだと思っ…あっ、逃げられた!くそ、釣りはやめだ!ヘラクレスを捕ろう。」 失敗が続いて、今度は釣竿から網を手に、虫が止まっているヤシの木に近付く。 「…でも二人は付き合ってないって…、でもだとしてもあの電話……あっ、逃げられた!くそ、次逃したら俺は死ぬ。」 シュンくんがメイさんと付き合っていないと言うなら、そうなんだと思う。でも俺は、あの二人には何かあるような気がしてならなかった。 「てか、相手いるのになんで俺に……っぁあ!逃げられた!はい、俺死んだー。全部シュンくんのせい〜。」 集中力を上げるための言い訳も、シュンくんとその相手について考えていた事によって無意味に終わった。 「え?僕?」 「っひぃ!?」 突然背後から声がして、ビクッと肩を揺らす。慌てて後ろを振り向くと、上着を手に持つシュンくんが立っていた。 「ただいま。」 「シュ、シュンくん…!?いつから……。」 「『…あっ、逃げられた!くそ、次逃したら俺は死ぬ』…あたりかな。」 「いや、声かけろよ!」 恥ずかしい独り言を聞かれていて、俺は顔を赤くさせながらゲームのセーブを行った後、電源を落とした。

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