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Page52:フルコンボデート

「んー!うまい!やっぱり朝は和食がいいね!」 リビングへ行くと、美味しそうな朝食がテーブルに置いてあった。炊きたての米に、玉ねぎと豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたしに、漬け物、焼き鮭。 「フルコンボだドン!」 「え?」 「もう一曲遊べるドン!」 「え…?」 「おかわり!!」 「えっ、あ、あぁ…。」 俺の言動に戸惑いながらご飯をよそってくれてるシュンくんを余所に、ズズーと味噌汁を啜った。 「ねぇ、ナオくん。今日、暇だったら一緒にお出かけしない?」 「へっ?」 美味すぎる朝食をムシャムシャ食べていた俺は、突然のお誘いに思わず箸を止める。 お出かけしないか、だと…? 「嫌?今日はダメ?」 「え、てか、どこに…?」 ここ数ヶ月、お出かけした場所と言えばコンビニくらい。正直、超インドア派だから遊びに行くのはあまり気が進まない。 「一駅先にショッピングモール出来たんだ!ナオくん、デートしよ!」 だけど、そんなキラッキラのいい笑顔で言われてしまえば…。 「デ…、あ、はい…。」 ツッコむことさえ出来ずに、イエスの一言が口から出ていた。…思えば、今朝見た夢は予兆だったのかもしれない。 「…シュンくん。」 「なに?」 「今日は休日ですか?」 「平日だよ。」 「平日ですか、そうですか。」 「うん!」 「…いや、人多過ぎんだろ!」 なんだこの人混みは!?みんな仕事は!?学校は!?なんで昼前からこんな所にいるの!? 「え、そう?空いてる方だと思うけど。」 「これで!?」 じゃあ休日はどうなるんだよ!想像しただけでも恐ろしいわ! 「あ、このお店寄っていい?ナオくんも一緒に見て買おうよ!」 ニコニコしながらシュンくんが指差したのは、そこそこ有名なブランドの服屋さん。 「フッ、俺に服なんて必要な…」 「僕、私服がダサい人が身内にいるなんて嫌だよ。」 「え!?俺ダサい!?ジャージとTシャツにダサいとかあるの!?」 目を見開きながら自分の服を見る。 ファッションに疎い俺は、自分の格好がダサいなんて思いもしなかった。むしろ、いつも着てるヨレたTシャツじゃないから、尚のことまともと思い込んでいた。 「いや、まずその格好で外には出ないよね。」 「いや、家出る時言ってよ!まぁ、本職は自宅警備だから別に服なんて……っほしいなぁ!ハハハ!」 「そうだよねー!じゃあ行こうか!」 「ハーイ!」 断ろうと思ったが、にこっと笑うシュンくんから黒いオーラが出た気がしたので、俺は大人しくついて行った。 久々にコンビニ以外の場所に行って、服を買ったりアイスを食べたり…、気分転換にもなったし、何よりシュンくんが本当に楽しそうでこっちも嬉しくなった。 自分が思った以上に、二人でショッピングを楽しめたような気もする。そして、最後に俺のわがままで、ゲームコーナーに付き合ってもらった。 「あっ、もうちょっとだったのに!」 「…ナオくん。」 「ん?なに?…よし、もう一回!」 二百円を入れてボタンを押し、クレーンを動かす。 「…ああっ!!」 持ち上がるものの途中で落ちてしまいなかなか取れない。お陰でどんどん小銭がなくなっていく。 「本当にほしいの?この『ビッグ板チョコクッション』が。」 「ほしい!!」 「そんなに?」 「そんなに!だって俺チョコ好きだし!」 財布を開けて二百円出そうとしたが、もう一枚も百円玉が残っていなかった。 「俺ちょっと両替して…」 「はぁ、ちょっと待って。」 「シュンくん?」 ため息をついたシュンくんは、キョトンとする俺を余所に自分の財布を取り出し、二百円入れてボタンを押す。 「…はい。」 「え!?」 その数秒後、いとも簡単に取ってしまった商品を俺にくれた。 「っええ!?シュンくん上手すぎない!?」 「いや、ああいった仕組みはど真ん中狙わないと取れないやつだから。」 「仕掛けがわかってても一発で取れるなんてすごいよ!ありがとう!」 シュンくんの意外な特技に感動しながら、俺は板チョコクッションを抱きしめた。 「さ、欲しいものも手に入ったし、そろそろ帰ろうか?」 「うん!」 腕時計を見ながらシュンくんが言い、満足気に俺が答える。 「…それ、抱えて帰るの?」 「そうだよ?だって袋に入らな…」 「ナオ?」 不意に、背後から名前を呼ばれた。 「…え…?」 聞き覚えのある声にドキリとして、俺はゆっくり振り返る。 「よぉ、久しぶりじゃん。」 「…久しぶり、ナオ。」 そこにいたのは、もう会うことはないと思っていた、高校時代唯一の二人の友達だった。

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