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Page56:影の救世主
俺を見る、みんなの視線が痛い。その中にはもちろん、シュンくんもいて。
「……っ、」
やだ、そんな…。
「ぅっ、や……、」
そんな目で、俺を見ないで…。
「ナオくん、魔性だもんねぇ。」
「…っ?」
だばだばと涙を流す俺は、先ほどと同じ陽気な声で話すシュンくんに、思わず目を向けた。
「わかるわかる〜。可愛くて、変態で、淫乱で…、独り占めしたいって思うよね。」
にっこり笑って、コツコツと近付いてくる。
「…何回"お願い"した、ねぇ?」
スッと薄く目を開けたシュンくんに、ゾクッと背筋が凍った。顔は笑っているはずなのに、その目はとても冷たくて…。
そんなシュンくんに二人も気迫負けしたのか、俺から手を離した。
「たかが抜き合い、だろ?じゃあ、お前らは何回ナオくんに"いれたい"って思った?」
ん?と小首を傾げ、腕を組みながら回答を待つシュンくん。冷めた目で口角を上げる悪魔…いや、もはやこの場の魔王に、俺を含めた皆んなが黙った。
「…屋上、東棟トイレ。」
沈黙の後、ポソッとシュンくんが呟く。
「シュ、シュンくん…?」
「第三体育倉庫、旧校舎の空き教室…だったかな。」
「…!」
その場所は…、俺たちが…。
「あぁ、あと、三年A組の教室。」
「な、んで…シュンくんが、知って…。」
「お前らさぁ、ナオくんよりサカッてるくせによく言えるよね。」
そこは、俺たちが"抜き合い"した場所。
「なんで、知ってる?」
ハルが拳を握りながらシュンくんに問う。だけどシュンくんは、答えることはしないでただ口角を上げるだけ。
そしてその顔を見たナツが何かに気が付いた。
「…お前だったのか。」
眉間にシワを寄せ、今までよりも数段低い声で言った。
俺には全く理解できない。シュンくんがなんであの場所を知ってたのかとか、ナツが何に気が付いたのかとか…。
「ご名答。」
そして、シュンくんの言葉の意味も…。
「チッ、悪趣味な野郎だな。」
「いやいや、どっちが。」
二人のオーラが凄みを増す。ハルもまだ理解できてないようで、二人の掛け合いをただ黙って見てるしかなかった。
「ね、ねぇ…、なんの、話してんの…?」
ヒートアップされても困るし、何より自分が一番関係してるはずなのに、話が分からなくてモヤモヤする。
正直、話しかけるのもめちゃくちゃ怖かったけど、聞かずにはいられなかった。
「ナオくん、僕はね。全部知ってたよ、ナオくんのこと。」
「え…?」
少し怯える俺に、いつも通り優しい声と顔を向けるシュンくん。
そんなシュンくんが言った、『全部知っていた』と言う言葉に、一瞬息が詰まった。
「…なんで、こいつらに人気のない所に連れてかれて、ただの抜き合いで済んだと思う?」
若干パニックになっていたが、優しい声に聞かれて当時のことを少しだけ振り返る。
「い、いつも、何かしらの邪魔が…。」
そう。二人の時も三人の時も、時間とか関係なしに途中で物音とか人の気配を感じて、それ以上の行為には至らなかった。
だから、いつもその"邪魔"にホッとする自分がいたんだ。
でもそれは、学校だから当たり前で…。
『人気のない所に連れてかれて…』
…あれ?
「ま、さか…、」
「ふふっ、もうわかったね?…全部、僕だよ。」
俺は、その事実が衝撃すぎて言葉が出てこなかった。
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