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Page57:モテる男はツライ

「ってことで次からは、兄弟の僕に許可なく勝手にナオくんのこと傷付けたり、泣かせたり、触ったりしないでね。」 シュンくんは床に落ちてたチョコのクッションを拾い、パンパンとはたいて俺に渡した。 「あ…。」 「帰ったら洗おうね、そのチョコ。」 「う、うん…。」 未だ呆然とする俺の手をシュンくんは優しく握って、二人で歩き出す。 「待てよ。」 だが、ナツの低い声でシュンくんと俺の足はピタリと止まった。 「俺らがサカッてた?…はっ、冗談じゃねぇ。あんな声出して、あんな顔して…誘ったのは全部ナオだろ!」 ナツは怒鳴って、ダンッ!と拳で壁を叩く。 「お、おい、ナツ…。」 ハルはもうシュンくんや俺に文句を言うことはしなくて、逆にナツを止めようとしている。 「ナ、ツ…。」 この中でナツだけが、気にくわない顔をしていた。 「はぁ…。ねぇ、ナオくんが今、何してるか知ってる?」 「あ?」 「ニートだよ、ニート。」 「だからなんだよ。」 「母子家庭だったの、知ってたよね?」 シュンくんの声が低くなったのを感じて、繋いでた手にギュッと力を入れた。 「ナオくんが誘った?…それこそ冗談じゃねぇよ。」 シュンくん…?怒ってる、の…? 「お前、なんでナオくんが大学に行かなかったのか、考えたことあったか?母親支えようって思ってた人が、なんでニートやってると思う?」 「シュ、ンく…」 「お前らがナオくんの将来を潰したんだろうが!」 声を荒げるシュンくんの姿。 「なぁ、ナオくんの変化に少しでも気付いたか?お前らの言う"友達"ってなんだよ?ナオくんは性欲処理機なんかじゃねぇんだぞ!」 …こんなシュンくん、初めて見た。 全部全部、俺のことで、本気で怒ってるんだ。 「黙って聞いてりゃ言いたい放題言って…。お前がナオくんを責めて泣かせるのか?好きって言えなかった、お前が!」 「え…っ?」 シュンくんの言葉に、思わずナツを見た。 「………。」 ナツが…、俺を好きだった…? 「自分の想いも伝えれない小心者が、勝手に傷付けて泣かせてんじゃねぇよ。」 シュンくんが最後にそう言うと、ナツはもう何も言わなかった。俺たちは、二人を残してショッピングモールを後にした。 電車に乗る時も、家までの帰り道も、シュンくんは何も言わず、ただずっと俺の手を握っている。 人目を少し気にする俺は、チョコで繋いでる手をさり気なく隠してたが、数人の女の人たちがニヨニヨしながらこちらを見ていたので余り意味がなかった。 「………。」 「………。」 駅から無言のまま歩き、自分の家が見えてきた頃。 「…お、やっと帰ってきた。」 「え…、ソウ?」 なんという事でしょう。 このタイミングで、ソウが家の前で俺を待っていたではありませんか。 「あらあらまぁまぁ。まだ夜も更けてないのに、仲良くおててつないで見せつけてくれることぉ〜!」 口元に手を当てオネエ口調なのが余計に腹が立つ…、が、今はそんなこと言っていられない。 「ソウ、何か用?」 「ずっと待ってたのに冷てぇの〜!まぁいいけど。これ!どうかなって思ってさ!」 さっきの今だから、なるべく早く話を切り上げたかった俺は口早に用件を催促すると、ソウは持ってたチラシをピラッと見せる。 「季節はずれの…花火大会?」 「そ!俺と今からデートしようぜ!」 なんて嬉しそうな顔をするソウ。 それは本日二回目のデートの誘いだった。

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