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Page59:そして、花火は散った

なんだかんだ言いながらも、ソウは俺の行きたい場所に文句一つ言わず付き合ってくれた。 「あー食った食った!もう腹いっぱい!」 「そりゃ、あんだけ食えばな…。」 「ソウ、全然食ってないけど大丈夫か?」 「お前が食ってるの見てたら腹膨れたよ。」 ハハ…と引きつった笑顔を向けられ、若干引いた様子が伺える。 だって屋台って見るもの全部美味しそうに見えてくるんだもん!それに屋台でしか食べれないものもあるしね! 「あ、花火って何時からなの?」 「んー、もうそろそろだと思う。花火が綺麗に見える穴場知ってるから、そこに移動しようぜ。」 「うん!」 数年振りの花火にわくわくしながら、俺はソウの後をついって行った。 「ここ。」 「おぉ、穴場っぽい!」 ソウに連れられて来た場所は、人気がなく街灯のような余計な灯りもない、とても静かで薄暗い場所。聞こえるのは、虫の声と、近くに川があるのか、微かな水音だけ。 「ここ知ってんの、地元の奴らでも少ないんじゃないかな。花火とか、たまに一人になりたい時になんかはよく使う場所なんだ。」 「へぇ、そうなんだ。」 「誰かを連れてきたのは、ナオが初めてだよ。」 なんでか、今ソウは照れたように笑ってるのがわかった。暗いから顔なんて見えないのに…と不思議に思う。 「…ん?待てよ。ってことは、今まで花火見るの時、一人でここに来てたの?…一人で?」 「……俺は大勢で見るよりも一人のが好きなんだよ!悪いか!」 自分で墓穴を掘ったソウに、失礼だが心の中で俺は笑い転げた。 「や、悪かねぇよ、一人でも全然…!」 「暗くても、お前の顔が笑ってんのわかってるからな!」 「わ…っ!」 ソウがくしゃくしゃっと俺の頭を撫でくりまわした時、ドンッ!と心臓にまで響く音と共に、光がソウの顔を照らした。 「…っ、」 目が合った瞬間、ソウとの距離感が何故か急に恥ずかしくなって。 「あ、うっ、は、離せ!もう、子供じゃないんだか、らっ!?」 離れようとパッとソウの手を払い退けた瞬間、体が傾いて俺はソウの腕の中にいた。 「な、なに…っ、何もしないって、約束っ!」 「お前がそんな顔するからだろ。それに、抱き締めてるだけじゃん。」 「どんな顔だよ…。てか抱きしめてる時点でアウトなんだけど…?」 「………。」 急に黙り込んだソウの心臓が、煩いくらい鳴っているのがわかっていた俺は、強く抵抗しないでソウの言葉を待つ。今のソウは、俺を襲ったりしないと確信しているから。 すぐ横で、ドンッドンッと夜空に花が咲いては散っていく。ここから見える花火は、今まで見てきた中で、多分一番綺麗に見える。 「ナオ、俺……、ナオが好きだよ。」 ジュワジュワと花火が散る音と共に聞こえたのは、ソウからの震えた告白。 「わかってんだ。今まで取り返しがつかない事してきたのも、これからナオに…フラれることも。」 俺を抱く腕に力が篭るのを感じ、痛いほどソウの気持ちが伝わってくる。 「でも、それでも俺は…お前が欲しい…っ!」 ソウの、噓偽りがなく素直で真っ直ぐな告白。今までで一番ソウらしくて、俺は嬉しかった。 「…ソウ、俺はーーー。」 だから、俺も俺らしく。噓偽りのない、素直で真っ直ぐな気持ちを言葉にして、ソウに伝えるよ。

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