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Page60:ゲームの基本はセーブ
「ただいまー。」
「あら、おかえり。」
花火が終わり、ソウに家まで送ってもらった俺はリビングの扉を開けた。そこには母さんだけで、シュンくんの姿はない。
「…シュンくんは?部屋?」
「あぁ、シュンくんなら今日から友達の家に行くって、ちょっと前に行っちゃったわよ。」
「え…?」
「テストが近くて、自分の勉強がてら友達の勉強も見るから暫く泊まるって。」
「そ、そうなんだ…。」
完全に避けられた。今まで何処かに泊まりとか絶対になかったし、俺は何も聞いてない。
「あ、あと行く前にシュンくんが部屋の片付け手伝ってくれてね、ナオとはもう別々の部屋になったわよ。」
「はっ?」
「私はナオと一緒でもいいんじゃないのって言ったんだけど、これから勉強とか忙しくなるとナオが部屋でゲームとか出来ないだろうからって。ソファーベッドの方でいいって言ったから、それだけ移動させといたからね。」
母さんの言葉に、心の中で何かがガラガラッと音を立てて崩れ、気が付いたら真っ暗な自分の部屋にいた。
「…っ、」
途端、溢れる大粒の涙。
それは、紛れもなく俺に対する拒絶だと思った。
****
シュンくんが家に帰って来なくなって、数日が経つ。最初は、ゲームセンターで取ってくれたチョコを抱きしめてアホみたいに泣いていた。
「ふ、ふふ…っ!ついに、ついにやったぞ。全ルートコンプリートだ!」
だが今は、立派なゲーマーになって充実した日々を過ごしている。
夜通しゲーム。眠くなったら寝て、起きたらゲーム。たまに飯。そしてゲーム。風呂。ゲーム。寝る。…みたいな、腐り切った生活。
「ナオー?開けるわよー?」
トントンとノックが聞こえ、母さんが部屋に入ってきた。
「なんだい、親分。」
「誰が親分だ。」
「せやかて工藤。」
「誰が工藤だ。」
「んで、何用かな?」
母さんに話しかけられても、カチカチとコントローラーを操作し、目は画面から一切逸らさない。
なんたって、二週目が肝心なのだから!コスチュームが変えられて、新しいイベントが観れる。それが楽しみでここまでやったと言っても過言ではない。
「ナオ、あなた最近…。」
「んー…?」
よし、ここで一回目にはなかった洞穴が出現して、そこに入って…。
「…ナオ。」
「ん、なに…。」
出てきた青い蝶を追いかけて行くと…。
「こっちを見なさい、ナオ。」
「今、忙しいでござる。」
ついに、イベントが見れ…!
「いい加減にしなさい!」
突然、怒鳴り声と共にテレビ画面が真っ暗になった。
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