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Page61:死にてぇ夜
「……は?」
一瞬、何が起こったのかわからず固まる。
「はぁ!?」
切った!?何を!?テレビ!?電源!?
「あんた、いつまでそんな生活ばっか送ってんの!」
「いや、あなたこそ何してくれてんの!?」
「あんたが話を聞かないからでしょ!」
「聞いてたじゃん!返事したじゃん!?これイベント発生後にしかセーブできないんですけど!?今そのイベント間近だったんですけど!?」
テレビではなく、ゲーム機本体のコンセントを抜かれた事に気が付き、一気に頭に血が上る。
「マジで何してくれてんの!?は?いやいや、はぁっ!?」
チッと舌打ちをして、コントローラーを投げる。やり場のない怒りを、俺は物にぶつけた。
その瞬間、バチーン!と音が部屋に響いた。
「いってぇッ!」
強烈な平手が飛んできた後、頬に手を当てるとそこは熱を持ち、熱くなっている。
「物に当たるなって何度言えばわかるの!?高い金払って買ったものでしょうが!」
その痛みと母さんの怒鳴り声で、俺の怒りは更に込み上げてくる。
「じゃあ何処に当てればいいんだよ!?ぁあ!?何しようが俺の勝手だろうが!」
「就職もしてない人間に、そんな勝手ばっか許されると思ったら大間違いよ!二十歳超えた大人なんだから、もっと精神年齢も大人になりなさいよ!」
「うっせーな!就職してる人間がそんなに偉いのか!?金だってちゃんと家に入れてるし、俺一人でやりくりしてんだろうが!それの何が不満だよ!?自立して家出てけばいいんか!?」
言い合いはヒートアップし、俺は我を忘れた。
だから、言ってはいけない言葉を…。
「悪かったな、出来の悪い息子で!アイツとの間に出来た子供だもんな!こんなクソみたいな俺が産まれてきて悪かったな!」
「……っ、」
たった一人の血の繋がった肉親に、言うべきではない言葉を言ってしまったんだ。
「ナ、オ……。」
「あ…。」
母さんの大きな瞳から涙が零れるのを見て、後悔が俺を襲う。
「…っ、」
母さんは、何も言わず走って俺の部屋から出て行った。
「…はぁ…。」
傷付けて、泣かせた。
「……なにやってんだ、おれ。」
守るべきものは、昔からなに一つ変わってなかったのに。
俺は、財布とスマホを持って外に出た。シュンくんとショッピングモールに行って、ソウと花火を見た日以来の外。
もう日は落ちて薄暗く、肌寒い風が俺の頭を冷やしていく。
「…さむ。」
昔から母さんは、ネガティヴ思考の俺に言っていた。
『ナオが自分を卑下すると、母さん悲しいよ。』
『ナオがいるから頑張れるの。それに、ナオにはナオの良さがある。』
『ねぇ、だからお願い。母さんの元気の源を、悪く言わないで?』
この言葉に俺はずっと救われてて、優しく笑う母さんを守らなきゃって思った。…はずなのに。
『こんなクソみたいな俺が産まれてきて悪かったな!』
あんな酷い言い方…。そんなこと、母さんが思うはずないってわかってたのに。
「あー、死にてぇ。」
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