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Page62:不意打ちpunching

しばらく公園のベンチに座り、ホットココアを飲み終えたところで、俺は電話をかけた。 『…はい。』 「あ、ナオです。…今から、ちょっと来てもらっていいですか?」 "こうなったのは、誰のせい?" おれのせい。 "母さんを悲しませたのは誰?" おれ。 "母さんを傷つけたのは?" おれ。 "誰が一番悪い?" おれが全部、一番わるい。 …そう自問自答を繰り返す。 「おまたせ、ナオくん。」 「…急に呼び出してすいません、京介さん。」 俺が一番に受けなきゃいけない罰。 「それはいいんだけど、大丈夫か? 麻衣子さんと喧嘩したんだろう?」 「はい。…俺が悪いんです。」 「いや、麻衣子さんはそんなこと一言も…。」 「いえ、事実です。…突然で申し訳ないのですが、俺のこと…、一発、本気で殴ってもらっていいですか?」 父、京介さんからの裁き。 「え…?」 「お願いします。」 「いや、でも…。」 「じゃないと、俺が母さんに合わせる顔がありません…っ!」 「………。」 頭を下げて頼み込んでも、京介は戸惑いの表情を浮かべたままで一向に殴る気配がない。 無茶な頼みだってわかってる。けど、これだけは受けないといけないんだ。 「俺が…、俺がっ!あんたの女、泣かせたんだぞっ!」 「………。」 ピクリと京介さんの指先が少し動いたのを見て、確信した俺は言葉を続けた。 「例え息子でも!自分の女泣かされて黙って…ッぐふっ!!」 喋ってる真っ最中、それも歯を食いしばる余裕も踏ん張る暇もない時に、右ストレートがモロに入って、俺はそのまま後ろへ倒れた。 「…ッぅ、…っ!」 母さんのビンタより遥かに重くて、今まで殴られてきた中で一番痛かった。 「…ナオくんを、許そう。」 「…っす、」 激痛で喋ることもままならず、俺は情けなくも目に涙を浮かべた状態のまま、京介さんを見上げて頭を下げた。 「一緒に帰るか?」と言われたが、さすがに半泣き面で母さんに会うわけにいかないので、首を横に振って断る。 「そうか。じゃあ落ち着いたら帰っておいで。」 腕を引っ張って俺を立たせると、くしゃりと頭を軽く撫で、京介さんは帰って行く。それから俺は自販機で冷たい缶ジュースを買い、頬に当て痛みが安らぐのを待った。 「…ただいま…。」 「っナオ!?」 「あ、母さ…っうわ!?」 帰って早々、俺は母さんに抱きしめられ、倒れそうになるのを踏ん張る。 「遅いじゃないの…っ!このバカ!バーカ!バーカ!」 まぁ、京介さんのパンチの痛みが引くのに一時間くらいかかったからな。…その間も、ずっと母さんは心配しててくれたのかな…。 「…母さん、ごめん。自分の未熟さを母さんのせいにして…酷いこと言って…、ごめんなさい。」 こんな俺でも、懲りずに世話を焼いてくれるのは母さんだけ。世界中の母親探しても、母さんだけなんだ。 「…全部が全部、ナオのせいじゃない。私にだって責任がある。酷いこと言ったのも、したのも、私の方…、ごめんね、ナオ…。」 ぎゅっと首に回る腕に力が入り、俺は母さんの背中をポンポンとあやすように叩く。 「母さん、俺…、母さんの息子でよかったって思ってるよ。」 そう言ってすぐ、自分の耳元で啜り泣く声が聞こえた。

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