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Page63:いかがわしい匂い

翌日、シュンくんがいなくて良かったと、この日初めて思った。 「ワー、見事に腫れ上がっている…。」 何故なら、洗面所の鏡に映る自分の顔がとても醜いからだ。 母さんの平手に京介さんのグーパン、どちらも同じ頬で受けたのもあり、変色して腫れている。そして少し泣いた所為か、目も充血していた。 「口動かすだけで痛い…。てかこんな顔誰にも見られたくないなぁ…、俺ニートでよかっ…」 「ナオくん?」 「…っ!?」 突然、ノックもなしに洗面所の扉がガラリと開いて、入ってきたのはいつ振りかのシュンくんだった。 「…?」 鏡越しに顔を見られると思った俺は、咄嗟にしゃがみ込んでそれを回避する。 「あー…っと、ここ、たくさん埃が…。」 「…掃除?」 「う、うん。」 なんて、嘘だけど。 「使っても大丈夫かな?」 「えぇーっとぉ…、あー、うん、いいよ…。」 顔を上げることは愚か、立つことすら許されないこの状況で、どう退けと!?…なんて思いながら、これでもかってくらい下を向いてしゃがんだまま必死で横にズレた。 「あ、あー、こっちにもこんなに埃が…。」 わかってる。こんな言い訳が苦しい事くらい。 何してんだ俺って自分で思ってる。そして、背中に感じる視線が痛い…。 「ナオく…」 「そーいえば!シュンくん、テストもう終わったの?」 俺の様子に勘付いて何かを言う前に、俺が質問してシュンくんの言葉を遮った。 「…いや、まだテスト期間中だよ。」 「へ、へぇー!じゃあ今日も行っちゃうんだー。」 …また、俺は一人になるのか。 「うん、ちょっとお風呂入りに来ただけだからね。」 「お風呂、ね…。」 「汗かいちゃって。流石にこんな昼間から借りたりするのも家の人に悪いし。」 「………。」 シュンくんは、勉強教えてるって言ってたよな? 「…?ナオくん?」 なのに、汗かくこと、しちゃってんだ? 「…っ、」 じわりと視界が歪んでいく。 下を向いている所為もあるのか、今にも涙が床に落ちそうで、早くこの場から離れなきゃって思うのに体が動かない。 俺を一人にして、シュンくんは他の人と…。 「ねぇ、ナオくんって、ば……。」 「…あっ、」 ツ…と涙が頬に伝い、視界にシュンくんが映ったところで、肩に手を置かれ無意識に振り向いてしまっていた事に気が付く。 俺の顔を見るや否や、大きく目を見開き唖然とする。その瞳に映ったのは、赤紫に腫れ上がった痛々しい頬に、充血した目から涙を流す俺の姿。 「それ…っ!」 「っな、なんでもないから!」 俺はシュンくんの手を振り払って、急いで二階の部屋へと駆け上がる。 最悪っ、最悪だ…っ!一番酷い顔の時に、更に泣き顔を見られるなんて…っ! 「しゃいあくだぁ…っ!」 びえーっと大量の涙を流しながら自分の部屋に入り、扉を閉めようとした時。 「っナオくんッ!」 「…っ!」 伸びて来た手がガッと扉を掴み、阻止した。

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