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Page64:しょっぱい水
「ねぇ、その顔の痣どうしたの?」
ジッとこちらを見るシュンくんの視線が痛くて、俺はすぐに目を逸らす。
「こ、れは…、その…。」
「まさか、アイツがやったの?それともあの二人?」
顔を見なくても声色でわかる、シュンくんの怒り。
「ち、ちがうよ!何もされてない、みんな関係ないよっ!」
「じゃあ誰?」
親子喧嘩なんて少し気恥ずかしくて言いたくなかったが、この状況で下手に隠せば余計に誤解が生まれると思い、観念する。
「母さん…と、京介さん…。」
「は?父さん?」
「いやっ、あの、俺が昨日母さんと喧嘩して、泣かせちゃって…、そのケジメみたいな…っ!と、とにかくっ、俺が頼んで殴ってもらっただけだからっ!京介さんは全然悪くないよ!」
「…じゃあ、泣いてる理由は?」
うまく伝わったか不安でドキドキ心臓が鳴っていたが、更にドッキーン!と大きく鳴った。
シュンくんが他の人と…なんて思ったら勝手に出ましたなんて、絶対に言えるわけもなく。
「い、痛くてっ!口、動かすだけですげぇ痛くて!でも、こんなの数日したら治るし…!全然大丈夫だからっ!」
「………。」
「お、俺のことより、早くお風呂入って、行った方がいいんじゃないっ?」
「………。」
騙せたのか、騙せてないのか。
俺の言葉に対して何も言わないからわからないけど、とりあえず精一杯笑ってみせる。
「…そうだね、そうするよ。」
その言葉だけを残して、シュンくんは階段を降りて行った。
これでよかった。
「…ぅ、ひ、く…っ、」
よかったはずなのに、俺はまた泣いていた。
そして泣き疲れた俺はいつの間にか眠っていて、目を覚ました時には、もう外は薄暗かった。
「…飯…、風呂……。」
空腹を満たしたいし、疲れ切った身体を癒したい。泣きすぎた所為かズキズキと頭が痛んで立つことすらしんどかったが、よろけながらも俺はリビングへ向かった。
「………。」
リビングの電気は消えていて、シンと静まり返ってることから、この家には俺以外誰もいないんだとわかる。
夜ご飯を作り、一人で食べた。
母さんと京介さんはまだ帰って来ていないから、二人分のご飯をラップしてテーブルの上に置く。
その後、さっとシャワーを浴びて再び部屋のベッドへと潜り込んだ。
「…これじゃ、また一緒だ…。」
シュンくんが初めてこの家に帰って来なかった日、俺は背を向けて離れていったシュンくんを思い出しては泣いていた。
ずっと、ずっと、この部屋で。
そして今日も、シュンくんは俺に背を向け離れていったんだ。
「一人なんて、別に慣れてるのに…。」
こんなの、シュンくんが来る前なんか当たり前だったのに。
「…っぅ、」
いつの間に、俺はこんなに弱くなったのだろう。
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「なんか、一生分の涙を使い果たした気がする。」
翌朝、俺の目が死んだ。
「開かない。いや、開いてるけど、見えない。」
立て続けに泣いた所為か、目が異常な程腫れ上がっていて、お陰で鏡に映る自分はまるで別人。
人間、泣きすぎるとこうも変わるのかとドン引きするくらい。
「蒸しタオルと冷たいタオルを順番に当てると、血流が良くなって腫れが引くって誰かが言ってたような言ってなかったような…。」
曖昧な知識を頼りに、タオルを用意して部屋へ向かい、横になって目の上にタオルを乗せる。
「…なかなかいい。効く気がする。」
数分ごとにタオルを交換して、様子を見ることにした。
「ただいまー。」
「おかえり。」
母さんが帰ってきた頃には、少しの腫れぼったさと充血の名残りだけでだいぶマシになっていた。
「あら、ナオ。昨日は夜ご飯ありがとうね!」
「うん、でも先に寝ちゃってごめん。」
「いいのよ。…あれ、ナオ泣いた?」
「えっ?あっ、あぁ、感動系のアニメ見てたから…。」
「そうだったのね。」
指摘されて少し戸惑ったけど、それっぽい理由を言って、その場をやり過ごす。
「あ、そう言えばシュンくん、明日帰ってくるって!」
「えっ、あ、そうなんだ…。」
「なによ〜、久しぶりじゃない。嬉しくないの?」
「や、別に…、そんなはしゃぐほどでもないし…。」
それに昨日会ったしな…なんて思いながらも、会いたいような会いたくないような、複雑な気持ちでいっぱいだった。
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