66 / 146
Page66:兄弟
喚起のため窓を開けてから、俺は廊下にいたシュンくんを部屋に呼ぶ。俺はベッド、シュンくんは勉強机のイスに座った。
「顔の痣、だいぶ良くなったね。」
「あ、うん、もうそんなに痛くないし!」
会ったらギクシャクするんじゃないかと思ってたが、案外普通に話が出来て少しホッとする。
「父さんの本気は痛いよねー。」
「うん、今までで一番痛かった…。」
これを機に、仲直りできないだろうかとふと思う。喧嘩してるわけじゃないけど、やっぱりいつもと俺に接する態度が違う感じがした。
多分、きっかけはソウと花火を見に行ったこと…。それなら、素直にソウから告白されたと言って、俺がなんて答えたのかを伝えればいいんじゃないか?
「きっとそれが一番いい」と思った俺が口を開いた時。
「…シュ、」
「ねえ、ナオくん。」
俺より数コンマ早く出てきたシュンくんの言葉によって、俺の声は言葉になる前にかき消されてしまった。
「あっ、なにっ?」
それに少し気恥ずかしさを覚えながら、シュンくんの話を待つ。
「あのさ、僕たち…。」
「うん…?」
「…僕たち、普通の"兄弟"に戻ろうか。」
「……え?」
一瞬何を言われたか理解出来なくて、頭の中が真っ白になる。脳は理解しようと処理を進めるが、心がそれを理解したくないと反発し合い、息が詰まった。
ドクドクと早くなる鼓動と共に、ギュッと心臓を掴まれる痛さが俺を襲い、嫌な汗が吹き出る。
「考えたんだけど、やっぱり家族になった以上、一線超えちゃだめだなぁって思って…。まぁ、今更僕が言える立場でもないけどさ…。」
「………。」
「でもやっぱ最後は結婚して、親に孫の顔を見せてあげたいし、ナオくんには本当に好きな人と幸せになってもらいたい。」
それは、俺たちの関係が、この距離が、これ以上進むことはないってこと…?シュンくんは、それを望んでいるの…?
「…そ、そう、だね…。」
なんて、そんなこと聞けるわけがない。
だってきっとそう望んでるから、シュンくんは俺に言ったんだ。
「シュンくんも、好きな人と…け、結婚…とか、したい、もんね…?」
「…うん。」
あ、やばい。
「…っ、あ、はは、まぁ、そりゃそうだよねっ!俺も…、俺も、それがいいと思う!」
泣いてしまう。
「ナオく…」
「っごめん!俺、ちょっと約束があるから行かなきゃ!」
泣く姿なんか見せたくなくて、必死に堪えて精一杯の笑顔を向けて…俺は家を飛び出した。
「…っふ、ぇ…、」
途端、限界を超えてボロッと大粒の涙たちが頬を伝った。
「…お?あれは…、奈央か?」
そんな俺が走って行く後を、この世で一番嫌いな人物が付けてきているのも知らずに。
ともだちにシェアしよう!