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Page67:知らないママで
それから走って着いた場所は、公園だった。
ごしごしと涙を拭い、自販機で缶ジュースを買って気持ちを落ち着かせる。
幸い公園には誰もいなくて、平日の昼間でよかったと思った。
「しばらく、ここで時間潰すか…。」
ズッと鼻をすすり、はぁ…と、ため息を零しながら俯いた瞬間。
「よぉ。」
「…っ!」
頭上から聞こえた声に、思わず目を見開いて顔を上げた。
「久しぶりじゃねぇか。大きくなったなぁ?」
そこにいたのは、数年前に母さんと離婚した俺の父親で、一気に顔が強張る。
ドクドクと鼓動が早くなって、じわりと手に汗が滲んだ。
「…何しに来た。」
自分の声が、これでもかというほど低くなる。それくらい、俺はこいつを嫌っているということ。
「おーおー、こっわいねぇ。久々の父と子の再会じゃねーの、仲良くしようや。」
一条亮(いちじょう りょう)。
見た目はチンピラ、中身はドクズ。昔ほどの派手さはないが、相変わらず髪の毛は騒がしい色で口、耳、眉毛にはピアスがついてる。
「ふざけんな。もうお前を父親と思うことなんてない。」
なんでここにいる?一体何しにここに来た?
「ははっ、ひでぇ言われようだなぁ。父さん悲しい〜。」
「散々暴力振るった挙句、女作って出てったのは誰だよ。…ここにいるのも、偶然じゃないよな?」
離婚してから数年、一度も連絡や姿すら見せなかったのに今更こんなところに来るなんて、絶対何かあるに決まってる。
絶対裏がある…一条亮は、そういう人間だ。
「察しがいいな、さすが俺の息子。いやなに、麻衣子にちょーっと金貰おうと思ってサ。」
どこまでもクズな一条に、怒りを通り越して呆れる。本気で言ってるなら一度死んだほうがいいと思った。
「生憎、母さんはもうお前のじゃなければ、俺にも新しい父親がいるんだ。この意味、分かる?…母さんの幸せぶち壊してみろ、俺がお前をぶっ殺してやるからな。」
こいつの血が流れてるって思うだけで反吐がでる。こいつが母さんに近付こうとするだけで殺意に駆られる。
「おいおい〜、実の父親に対する口の利き方がなってねぇなぁ?昔はあんなに利口だったのに。」
「は?…ッぐふっ!!」
一瞬にして呼吸を奪われた俺は、その場に崩れ落ちた。鳩尾への強烈なパンチに、「か、は…っ」と浅い呼吸を必死に繰り返す。
「また躾が必要か?」
「っは、はぁっ…、ぅう!」
「…ふーん?ちょっと生意気だが、そこそこいい男になってんな。なぁ、奈央、取り引きしないか?」
俺の前髪を掴んで顔を上げさせると、怪しげに笑い、苦しむ俺を無視して取り引きの内容をベラベラと話し出した。
「ただいま…。」
「あらナオ、おかえり!」
「っ、ただいま!」
出迎えてくれた母さんの笑顔を見て、キュッと心が締め付けられる。
『お前が麻衣子の代わりに金をくれよ。』
何も知らない母さん。
『そしたら麻衣子にも近付かねぇ。但し、お前がヘマして他にバレる事があれば…、お前の新しい家族を壊す。』
「ご飯出来てるわよ。…?どうかした?」
俺が、みんなを、母さんを…守らなきゃ。だから、何も知らない母さんのままでいてくれ。
「あ…、ううん、何でもないよ!お腹すいた!」
この日から、俺は苦手な嘘をつき始める。
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